人間屑シリーズ
コンコース内の公衆電話コーナーに設置された電話は三台。
そこに辿り着くとミカは一番左端の電話に近づき、その付近を調べた。電話の影やその下のタウンページの置いてある小さな棚。ミカがそうやって探している隙を見て、私は一番右端の電話台の棚にそっとスイッチを置いた。
ミカは探すのに必死で私の行動には気付いていないようだった。私は何故かホッとして、真ん中の公衆電話を調べる。
「無い。そっちは?」
「無い……と思う」
私がそういうとミカは一番右端の電話を調べ始めた。そして――
「あった!」
そう言ったミカの声が耳に届くのとほぼ同時に、ピンポーンというあの間抜けなチャイムの音がした。
「はーーーっ」
大きく息を吐いてミカがその場に崩れ落ちた。
「ミカ……」
私が声をかけるとミカは私に向ってにっこりと微笑んだ。その姿はゴミにまみれて汚れてはいたが、やはり天使のように美しかった。
「良かったぁ。おかげでなんとか見つけられたみたい。本当に有難う」
そう言って私に向って握手を求めて右手を差し出す。私もそれに答えようと右手を伸ばそうと――
「シロさん!」
ふいに背後から声がかかった。
振り返るとそこには3人の男女がいた。
「知り合い?」
ミカはキョトンとした顔で私を見ている。
知り合いも何も彼等は……。
「わざわざシロさんが誘導して下さっていたんですか? うわあ、俺ラッキーだなぁ」
男の一人が喜々としてそう言った。
そう、彼等は契約者だ。それも崎村カオリから派生した契約者達だった。
契約者同士がその成功率を高めるために、チームを組んで行動しているという話は聞いていた。彼らもその一つなのだろう。この喜んでいる男とは以前に、遊園地で崎村の契約者を確保した時に面識があった。
「この人がシロさん?」
「そうさ、この方があの有名なシロさんだよ!」
男の後ろに隠れていた女が私を見ながらそう言うと、男は自分の事のように自慢げに胸を張った。
「どういう事?」
空気を切り裂くかのような冷たい声がミカから発せられた。
ミカの方へと視線を向けると、そこには人形のように冷たい目をした少女がいた。
「ミカ……」
私はミカの元へと近付きたいのに、足が動いてくれない。私の足の代わりと言わんばかりに、男の口が饒舌に動く。
「どういう事も何も、これは幸せへの儀式なんですよ」
どこかで聞いたようなセリフ。ああ、これは私がいつも口にしている事だ。そうか、彼らは新しい自分の契約者に説明をしにきたのか。自分達の泥沼へミカと言う少女を引き摺り込むために。その為に都合のついた三人で登場したというわけか。
「ふ……っふふ」
ふいに笑いがこぼれた。私は一体何を考えていたのだろう。ミカと過ごしたこの数日、私はどこか変だった。こんなはずじゃなかったのに。
ミカにあれこれとシステムを説明する男の声が、耳の中を滑り落ちていく。
ふとコンコースの入口へと視線をやれば、すでに雪が積もり始めていた。
世界が白に染められていく。私の色に染まっていく。