人間屑シリーズ
*
ミカと一緒に過ごすようになってから三日が過ぎた。
私とミカは瞬く間に距離を縮めていった。
私達はお互いに同じような傷を持っていて、そして同じように世界を儚んでいたから。
ミカが契約を交わしてから四日目となる今日も、私はミカと会っていた。
二人で何の目的も無く、ただぶらぶらと街を歩いているとふいにミカが口を開いた。
「私ね、一千万で命を売っちゃったんだ」
私はその言葉に歩みを止めた。
「ほら、最近よく聞くでしょ? 一千万で殺害されてみませんかっていうメールが届いて〜ってやつ」
ミカも歩みを止めて続ける。
「あれに私、返信しちゃった。殺して下さいって」
私はただ押し黙っていた。
その私の態度をミカがどのように受け止めたのかは、私には与り知らぬ所だったけれど。それでも彼女は少しばかり辛そうな顔をして言葉を紡いだ。
「あのさ、最初に公園で会った夜があったじゃない? あの日、私は公園に契約書を持っていってたんだ。そう指定されてたから」
「ミカは死んじゃうの?」
全部知っているクセに私は聞いた。自分のわざとらしさに少しばかりの苛立ちを覚える。
「うん。あと三日位で死んじゃうよ」
ミカはそう言って自嘲気味に微笑んだ。
「イヤ」
ミカの手を取り私は言う。
「ミカが死ぬなんてイヤ。せっかく友達になれたのに。私はミカともっと過ごしたい。ミカと話したい。ミカが死ぬなんて絶対にイヤ!」
馬鹿みたい。これじゃあただのダダっ子だ。それに彼女を殺そうとしている組織は……その中心は私なのに。
……ううん、違う。違う。これでいいんだ。私は彼女を生かして、そこから突き落とすのが目的なんだから。その為の“友達ごっこ”なんだから。
「……でも、死んじゃうんだ」
ミカがボソリと呟いた。
「ダメ、死んじゃダメ」
「でもどうしようもないよ、契約しちゃったから。あのメールが本物なら、それまでだよ」
「契約なんて破棄すればいいじゃん! キャンセル位出来るでしょ? だって人の命がかかっているんだよ!」
全部知ってるくせに、嫌な女。自分自身に吐き気がした。なんでこんなに不快なんだろう。今までだって何度も何度もしてきた事なのに。
「……出来るかな?」
「出来るよ……多分」
「……そうだね。聞いてみる」
ミカはそう言うと携帯を取り出し、メールを打ち始めた。
これでミカにメールを送った契約者は、そのマニュアル通りに彼女に指示を出すだろう。
私とミカは返事が来るまでの間、ファミレスで待機する事にした。