人間屑シリーズ
ペシミスティックな二人
マンションに戻るとクロが私をいつも通り優しく出迎えてくれた。
「お帰り。契約の手続きの方は済んだよ」
「そう」
「彼女、すごく綺麗な子だね」
「血が飲みたい?」
「少しね」
そう言うとクロは笑いながら部屋の奥へと向かった。
けれど私はクロのその言葉に、心の奥底からどす黒いものが込み上げてくるのを抑えられずにいた。
「彼女は死なせない」
真っ黒なソファーに身を沈めたクロに言う。
「彼女は死なせないから」
「そう」
クロはさしたる興味もなさげに返事をしただけだった。
「明日から私は暫くあの子と会う時間が増えると思うけど」
「あの子にメールを送った契約者は、あくまでマニュアルに従うだけだ。そこでシロがどのように彼女と関わろうと、それは問題ないよ」
「うん」
クロは私のする事にいつも寛容だ。私のどんな事でも受け止めてくれる。
「クロの食事はどうなってるの?」
「明日、一人食べられる予定だよ」
そう言って嬉しそうにクロは笑った。
「そっか。対象は?」
「フツーのおじさんだよ。一千万を家族に残したいんだってさ。馬鹿だよね。そんなもの誰も支払わないのに、自殺として処分されるだけなのにさ」
「ふふ、ホントだね」
本当に世の中には馬鹿という人種がいるものだ。私達の組織のメールは世間では既に都市伝説のような扱いを受けている。最初の頃のように殺される予定の人間を名指しする事はとてもレアだ。対象がどうしてもとそれを望めば、クロはどこかから情報を持って来たけれど、基本的にはもう必要の無い過程だった。
最早かなりの部分で各個人が独立して行っているのだ。
契約破棄後の一千万を現金で支払う人間もいたし、崎村などは既に百万の現金収入を得ている。そういった成功例も組織を固めるのに大いに貢献していた。
「シロは彼女が好きなの?」
ふいにクロが私に投げかけた。私は満面の笑みを作って言う。
「ううん、大嫌い」
私のその言葉を聞くとクロは満足そうに微笑んだ。