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人間屑シリーズ

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          *

 観覧車の前に着くと、ここも人気は少なかった。所詮は地方遊園地の平日だ。こんなものだろう。
 私は係員にそっと声をかけた。
「すみません、ウチュウくんに乗りたいんですが」
 私がそう言うと、いかにも暇を持て余していたという感じの係員は上機嫌で応対してくれる。
「ウチュウくんですね? 分かりました。では少しお待ちください」
 上を見上げるとウチュウくんは丁度てっぺん付近にいて、降りてくるにはもう少し時間が掛かりそうだった。
 ウチュウ君の観覧車は黄色で、その幸せの象徴のような色が私の胸を躍らせる。
「どうぞ」
 そんな事を思っている内にウチュウくんは下降し終わっていて、係員さんが開けてくれた扉に私はそっと導かれる。
「楽しんで下さいね」
 そういうと私を乗せた観覧車の扉は閉ざされた。
 それを確認するとバッグから例のスイッチを取り出して、どこかに隠せる場所はないかと辺りを探る。
 座席シートを引っ張るとバリバリというマジックテープが剥がれる音と共に、茶色いシートが簡単に外れた。中には空間があり、スイッチを隠すにはもってこいだった。
「よし、と」
 誰に言うでもなく呟いてからスイッチを配置し、もう一度座席シートをセットする。
 観覧車は頂上に近づいていた。

 ふと携帯がメールの着信を知らせた。
 パカリと携帯を開くと、そこには高橋からのヒントを買うとの文字。
 あの男はまだ見当違いな“わくわく☆海賊大制圧“で奮闘しているのだろうか。
 私はそうだな、そろそろ色位は教えてあげないとな、なんて思いながらメールを打った。
『頑張ってるみたいだね。特別に大サービス! 正解は黄色☆ 黄色だよ! 幸せの黄色いハンカチっていう映画知ってる? アレいつか君と一緒に見てみたいなぁ〜(笑)』
 なんて。この男と映画を見たいなんて心にも無い事だけれど、このウチュウくんの黄色は私にとって幸せの黄色だから。思わずその喜びがメールに出てしまう。
「有難うございましたー」
 そんなやりとりをしている間に観覧車は地上へと降りていて、その扉が開かれた。
「有難う」
 係員に一言礼を言うと私は観覧車を後にした。
 さて次はどこへ行こう。クロと合流するまでには時間がある。
 少しお腹も空いてきたしフードコートでも行こうかな。ロッキンホースブーツをカコンと打ち鳴らしながら、私は歩みを進めた。

          *

 フードコートでぼうっとしていると、あっという間に時間は過ぎた。
 時刻は既に午後五時を回っている。高橋からのメールは無い。 
 ――諦めた? ふとそんな考えが脳裏を掠める。
 いや、そんな事はあるまい。あの崎村がみすみすこの美味しい獲物を逃すはずはない。
 そう考えていたまさにその時、携帯が鳴り響いた。
 焦って打ったと思われる『ヒントをくれ』という短い文面に、私も急ぎ返信する。
 アトラクションは観覧車だという内容を送った所で席を立った。
 そろそろ観覧車に向かおう。そこで一体どういうフィナーレを崎村と共に迎えるのかが気になる。
 私は崎村にも『今回のスイッチの配置場所は観覧車のようです』とメールで伝え、歩き始めた。

 五分後、再び高橋からのメールが届いた。
 当然だろう。残り時間は最早十数分まで迫っており、尚且つ黄色い観覧車は“ウチュウくん”とその恋人キャラクターである“シンカイちゃん”の二種類がある。
『どっちだ!?』と焦り問うそのメールに私はいたく冷静に返信をした。
『主役にふさわしいステージは、主役のウチュウくんでしょ』
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文