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人間屑シリーズ

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          *

 翌朝九時過ぎ。
 高橋からのヒント購入のメールが届く。
 今日この男を契約者へと導けば、その後はクロと一緒に遊園地で遊べるんだ。そう思うと自然と顔がほころんでしまう。
 私はこみ上がる笑いを抑えきれずに、微笑を携えたままメールを打つ。
『基本的にさぁ〜、そっちからの質問には答えないよ。つまんなくなっちゃうもんね。
でも今朝は気分が良いから、特別に答えてあげよう☆ アトラクションに設置してあるよ』
 送信すると、身支度を整え始める。
 崎村とは遊園地内で待ち合わせしてあった。高橋が契約者となった後のアフターケアを任せるつもりだからだ。
「シロ……? もう行くの?」
 クロがまだボーっとする頭を振りながら聞いてくる。
「うん、そろそろ行くよ」
 そう言って私はクロがプレゼントしてくれた真っ白なコートを身にまとう。
 このコートを着ていると、クロ自身が私を包み込んでくれているような気がして、私は私以上に強い存在になれる気がした。
「そっか。僕は多分五時三十分過ぎ位にそっちに着くと思うから」
「分かった、待ってる。着いたらメールして」
 玄関でロッキンホースブーツを履く。少しばかり高くなった視界は、世界中を見下ろせるかのような気分にしてくれる。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 いつものようにクロに見送られて、私は外の世界へと飛び込んだ。
 太陽の光が眼球を支配する。その眩しさがむしろ心地よい。
 大丈夫、何もかも上手くいく。右手を一度だけギュッと握りしめてから、私は遊園地へと向かった。

          *

 遊園地には昼過ぎに到着した。
 入場門を潜るとすぐの場所に崎村カオリが立っていた。
「崎村さん、もういらしてたんですね」
 私がそう言うと、彼女は微笑みながら近づいて来た。
「ええ、少しやってみたい事があって」
「やってみたい事?」
 オウム返しに尋ねると崎村はさも嬉しそうにこう答えた。
「そう。高橋君は今“わくわく☆海賊大制圧”で探してるみたいなのだけれど」
「そこが正解なんですか?」
 私は空とぼけてみせる。あくまで私は崎村にとっては“先輩”なのだ。主犯だという事を彼女は知らない。
「さぁ、どうでしょう。でも今のこの時期ってあのアトラクションは人気無いですから。それってつまらないですよね。もっと焦ってくれなくちゃ」
 崎村の言わんとしている事が分かった気がした。この女はやっぱり心底性格がねじ曲がってしまっている。
「買収でもしますか? それとも他の契約者でも呼びますか?」
 私の言葉に崎村はにっこりと綺麗に笑った。
「他の契約者は、私絡みの人間をみんな呼んじゃいました。新しい仲間が加わるんだもの、みんな喜んで来てくれるって言ってくれて」
「じゃあ後は買収ですか?」
「そう、ね。シロさんも強力してくださる?」
 私は組織の人間からもクロが私をそう呼ぶように、シロと呼ばれている。こいつらに本当の名前を明かす気なんて、さらさら無かった。
「分かりました。リーダーと連絡を取ってみます」
「うん、お願いします。じゃあ私は高橋君に見つからないように、海賊エリアに向かいますから」
 そう言うと崎村はサッと踵を返して、入場門を後にした。
 その後ろ姿を見送った後、私はキャッシュディスペンサーに向かった。
 クロから自由に使っていいと言われている銀行口座があるので、そこから多少引き出すつもりだ。
 崎村の考えの性悪さには正直不快にすら感じたが、実際にそれをされて焦る高橋を思うとやはり笑いがこみあげてしまう。この愉快な作戦に乗ろうじゃないか。どうせ相手は屑なのだから。何をしたって良いんだ。

 キャッシュディスペンサーで五十万ほど引き出した後、私は海賊エリアへと向かった。
 海賊エリアに着くと、既に崎村が人を集め終わっていた。
「簡単なバイトです。“わくわく☆海賊大制圧”に並んでもらえれば良いだけですから」
 崎村がそう言って柔和な笑みを浮かべると、若者たちがこぞって参加を表明していた。
 私は崎村に「リーダーから許可を貰いましたから」とだけ言って、お金の入った封筒を差し出した。
 崎村は中身を確認すると満足そうな顔をして、カップルや友人といったグループを中心に金をばらまき始めた。
「崎村さん、私はちょっと離れますね」
「はい、有難う御座いました」
 崎村にそう言って私は海賊エリアを後にする。あそこは彼女だけで何とかなるだろう。
 今のうちに私はスイッチを設置しに行かなければ。
 実は今回のスイッチの設置場所は観覧車と決めていた。だってクロと一緒に乗りたいんだもの。スイッチの回収のついでにクロと乗るのは観覧車。それ以外は考えられない。
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文