人間屑シリーズ
ピルピルピルという音を立てて再び携帯が鳴ったのは、それから二時間ほど過ぎた頃だった。
送り主は崎村で『道が混んでいたから思ったより時間がかかった。もうすぐ高橋の家に着く』というような内容がかかれていた。
「クロ、高橋の家にもうすぐ着くって」
「そっか。じゃあ出ようか」
崎村達の移動に時間がかかった事により、すっかり日は沈んでクロも外出出来るようになっていた。
「うん。契約書は高橋の家の近くの公園のベンチに置くようにって指示してあるから」
「じゃあ先に行って待ち伏せだね」
そう言うとクロは立ちあがって真っ黒なコートを羽織った。
私も真っ白なコートを身に付けて、クロと手を繋いで闇夜を歩く。
さぁ、今日も狂気が始まる――。
*
公園に着くと私とクロはベンチ横の公衆トイレの陰に身を潜めた。
さすがにちょっと寒かったけれど、待ち時間はそうは掛からなかった。
遠くから男女の声が届いてくる。女の方の声は間違いなく崎村のものだった。
慌ただしい足音が近付き、ベンチに封筒が置かれる音がする。
「ホントに来るのかな」
「来ないと困りますよ、俺」
「うん」
そんな男女の会話に、私とクロは目と目を合わせてお互いに合図を送り合う。
クロがベンチの方へと体を向けたのを確認して、私も公衆トイレの陰から崎村の腕を一気に引っ張った。
「キャッ!」
崎村は大げさに驚いてみせたが私と目が合った瞬間、にぃっと不敵に微笑んでいた。 ――この女は間違いなく楽しんでいる。
「先輩!」
高橋が駆け寄って来るのが分かる。私はギリギリまで引きつけてから崎村を突き返した。
ドサッという崎村の体が男にもたれかかった音が届く。
クロの方はと確認すると既にその手に封筒を握りしめ、私に引き返すという旨の合図を送っていた。
私とクロは闇に紛れて颯爽とフェンスを乗り越えると走り出し、一気に公園から距離を取った。
高橋は追っては来まい。今頃は崎村が上手く丸めこんでいるはずだ。
「ハァ……ハァ……ハァーーッ」
公園から十分に離れた所で息を整える。
「崎村さん凄いね」
クロはそう言いながら、愉快そうに唇を引き上げた。
「ホントに」
私がそう言うと、どちらとも無く吹き出して。
私達はケラケラと笑いながら、クロのマンションへと引き返して行った。