人間屑シリーズ
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クリスマスだけあって通りには人が溢れていた。
崎村からのメールで、高橋の自宅に着くまでには二時間は掛かりそうだと連絡があったので、私はのんびりと大通りを歩きながら高橋の家へと向かった。
街は幸せそうな親子連れやカップルで賑わっている。ふふっ、なんて私も自然に笑みがこぼれてしまう。
だって私も幸せだから。私の帰りを待っていてくれる人がいるから。
足取りも軽く、住所にあったボロアパートの前に到着したのは午後二時過ぎだった。
高橋のメールポストを確認し、そこに契約書類を投函する。どうやら高橋はまだ帰っていないようだ。
くるりと踵を返し、今来た道を戻っていく。
クロは今、何をしているだろう? またDVDでも見ているのかもしれない。
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マンションに戻るとクロは案の定DVDを見ていた。
「お帰り」
「ただいま、今度は何を見てるの?」
「燃えよドラゴン」
画面を見るとリー夫人が何やら思い出話を語っていた。クロは最近の映画より、古い映画の方が好きみたい。
「上手く行った?」
テレビに向けていた視線を私に合わせクロが尋ねる。
「もちろん」
私は何でもないといった風で答える。そう、いつもの事なのだ。
「良かった」
クロはそう言うとにっこり笑って、私を横に座るようにと促した。私もクロの言うままにクロの隣に座る。
「ねぇクロ、スイッチどこに置こうか?」
テレビの中でブルース・リーがあの有名なセリフを吐いている。
「そうだな、うん。遊園地がいいな」
「遊園地?」
「そう、遊園地。まだシロと行った事ないから」
ドキンと心臓の奥が鳴った気がした。
うん、私もクロと行ってみたい。遊園地に。だって楽しいに決まってる。
高橋のタイムリミットは午後五時三十分。今は大体四時三十分には日の入りするので、クロがその時間から外出しても高橋の契約が完了した後からならば、閉園まで十分に遊べるなと思った。
「うん、じゃあ遊園地にしよう。そっちに誘導してくね」
「うん。楽しみだな」
そう言ってクロはにっこりと笑った。
その笑顔には何の迷いもなくて――。
だから私も早く高橋とかいう男の足掻きが始まらないかな、なんてワクワクしながら携帯を握りしめていた。