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人間屑シリーズ

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三日目



「ぴーぽこー ぴー」
 意味不明の言葉を吐きながら遠くを見つめ、立ち尽くしている妻を見ながら俺は心底後悔していた。一体どうしてこんな事になってしまったのか。
 浮気はもちろん悪い事だ。しかしここまでの罰を与えられる程の事だろうか。どんなにカレーが好きでも、たまにはハヤシライスも食べたい。その程度の事じゃないか。

 今回の事は完全に相手選びが悪かった。
 頭の弱い女だとは思っていた。だからこそ浮気相手に選んだ。その結果がアレだ。頭が弱すぎて世間体すら気に掛ける事が出来ないのだ。

「ぴーーぽこーーーっ」
 妻が楽しげな声を出す、何をしているかと見やれば妻は自分の排せつ物の染みついたオムツをブンブン振り回して遊んでいた。
「よう子! ダメだっ! ちょっ」
 俺はよう子からオムツを取り上げると、新しいオムツを用意した。妻の右足を上げさせると次は左足。ウエスト部分でサイズを調整。スカートを履かせる。右足、左足、ウエストのジッパーを上げる。汚れたオムツをゴミとして処理する。たったこれだけの事なのに、この作業はひどく疲れるものだった。

 一体なぜ俺はこんな事をしているのだろう? 年を老いれば、介護をしなければならなかったかもしれない。しかしそれはまだまだずっと先の事で……。
 ……いや、今でさえこんなにも辛く苦しい。妻が年老いて、介護が必要になった時。その時は俺も年老いているのだ。四十四の俺がこんなにも辛いのに、果たして老後に面倒など見れていたのだろうか? 介護するなんて、頭の片隅にも思わずに結婚していた。十三年の結婚生活で、ただの一度も考えた事が無かった。
 そもそも俺はなぜ妻と結婚したのか。三十を過ぎ、世間体を気にしただけじゃないのか。本心で愛しているといえるのだろうか? 愛しているなら、こんな介護など何の苦痛にもならない事なんだろうか。

 愛って何だ? 夫婦って何の為に一緒に過ごすんだ?



作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文