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人間屑シリーズ

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          *

 どうして私は今ホテルにいるのでしょう。彼女に手を握られ、あれよあれよという間にこうです。
「手なら二万、口なら三万。本番は六万ね」
 彼女は淡々と言います。
「高いって思うかもだけど、ハッキリ言って私ってばキレイだし」
 何の感情も含めない声で言い放ちながら、彼女は私の衣服を剥いでゆくのです。
「あの……」
 喉の奥がカラカラで、喉と喉の皮膚がくっつきそうになりながらも私は声を絞り出しました。
「ん?」
 彼女は跪き私のズボンに手をかけながら、上目使いでこちらを見ています。
「私は……その……そういうつもりでは……」
 彼女はスックと立ち上がると、正面から私を見据えました。
「じゃあ、どういうつもりなワケ?」
 美しい顔が少しだけ歪みます。
「オッサンさぁ、さっき公園で私とあの客の会話聞いてたよね?」
 聞いてませんでした、何も。
 けれど、そういう事だったんだなぁと大体の話は見えてきました。そう、今になってです。あの男性と彼女は……。恐らくは金銭的な交渉か何かでもつれていたのだと想像します。
「聞いてたら、どういう事か分かって着いて来たんでしょ?」
 分かっていませんでした。ただただ女性と手を繋ぐという慣れない行動に、戸惑っていただけにすぎないのです。
「何とか言ったら?」
 そう言いながらも彼女の手は私自身に近づいていきます。何らかの反応を示せば、彼女はそれを理由に金銭を要求するのだと思います。
「ねぇ……」
 彼女は甘く優しく、私に触れます。けれど私は……私自身は無反応でした。
「…………」
 彼女はやがて無言になり必死に私を弄るのですが、やはり私はそれに反応する事が出来ません。
 ――不能なのです。

「なんでよ……」
 どれ程の時間が経ったでしょうか、彼女は疲れ果てた声で言いました。
「なんで? 私の事嫌いなの?」
 言って彼女は私を見上げます。
「っ」
 私を見つめた彼女が息を飲む音が聞こえました。
「……なんで泣いてんの?」
 彼女が私にそう問う事で、初めて自分が泣いていたのだと気付かされました。
 本当に何故私は泣いているのでしょう。不能な自分が情けないからでしょうか? それとも彼女に憐れみを感じたのでしょうか? 普段は世間から憐れまれているこの私が。
「どうして……こんな事を……?」
 私は泣きながら彼女に聞きました。
「オッサンには……関係ないじゃん。っつーか、ここまで着いてきて説教垂れるとか何様?」
 彼女が私を嘲笑います。
「そうじゃない……そうじゃないんです……」
 私はほとほとと大粒の涙を零し続けます。醜い私の汚い涙です。下半身をさらけ出し卑しく泣き続ける。こんな姿を彼女の前に晒している事自体がもはや罪です。
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文