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人間屑シリーズ

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          *

 その日の帰りの事でした。
 私は天使に会ったのです。
 
 時刻は正午を過ぎ十三時を回ろうという所でした。
 三月も終わりに近付き、「もうすぐ桜の季節だなぁ」などと思いながら、いつもの通りに馴染みの公園を横切り自宅への道をのんびりと歩いていると、何やら言い争う声が聞こえてくるのでした。
 何事だろう? 面倒な事にはなるべく関わりたくないな……。と思いつつも、言い争いの声の激しさが増すので、声のする方へと歩みを進めたのです。

 そこには――天使がいました。
 茶色い髪がとてもよく似合う、付近の高校の制服を着た美しい天使。
 しかし天使の口から飛び出したのは、天上の囀りでも美しい詩でもなく、「ハァ? ふざけてんのっ!」という口汚いものでした。
 一体何事なのでしょうか? 私はもう三歩近づき、彼女の周囲をしっかりと観察しました。
 そこには彼女ともう一人、ひょろりとした長身の男性が立っていました。
 彼は彼女の腕を掴み、何やら口走っています。これは痴情のもつれというやつでしょうか? それとも……?

 私が思考を巡らしていると、ふいに男性の手が大きく振りあげられました。いけない!
「何をしているんです!?」
 自分でも驚く程の大きな声が出ました。
 私の声に二人はハッとなり、彼女はその隙に男性に掴まれたままの腕を思いっきり振り払うと、こちらに駆け寄ってくるのでした。
「先生!」
 なんてそんな風に私を呼びながら。
 何の事かは分かりませんが、ここは“先生”のフリをするのが得策なのかもしれません。
「どうしたんです?」
 そう言いながら、私も彼女に近づきます。
 男性の方をみやると、彼はまさに脱兎のごとき勢いで遠く走り去っていくのでした。
「大丈夫ですか?」
 私は彼女に声を掛けました。先ほどよりも近い距離で見る彼女の美しさは、息を飲むものがありました。
「あー……ありがと」
 彼女はそう言って、微笑んでくれました。それだけで私は――時が止まったように感じました。
 多くの女性は私のような男には、微笑んだりはしないのです。まして彼女のように美しい女性は。立ち尽くす私に向かって彼女は言葉を続けます。
「ねぇ、これもなんかの縁! って事でホテル行かない?」
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文