人間屑シリーズ
パンッ
パンッ
パンッ
間近で破裂音が連続で鳴っている。視界の中では“赤”が舞う。
俺はアスファルトに両膝をつき、前へと倒れこんだ。
終わりだ……。全て……。終わったんだ……。静に目を閉じると急速に体から力が抜けていくのを感じた。遠くから……なにか……。
「………くんッ!!」
慌ただしい足音と共に、誰かが俺の名を呼んだ気がした。視線だけを上に向けると、そこにいたのは――
「せん……ぱ……」
先輩が微笑んでいた。そしてその手に握られているのは――――
え?
クラッカー……? なん……で……。
「おめでとう! 君は間に合ったんだよ!」
赤が舞う。ひらひらと。手に落ちたのは赤い紙吹雪。どういう事だ……? 何で先輩がここに……?
そんな俺の戸惑いを無視するかのように、今度はダッダッダッダッと地響きのような音が聞こえた。
音は確実にこちらに近づいてきている。俺は崩れ落ちた体に力をこめ、上半身を起こし、音のする方へと顔を向けた。
そこにいたのは、こちらに向かってくる十数人の人の群れだった。なんだ……? なんだ……? なんなんだよ!
「君は私の十人目の契約者なんだ」
状況の理解出来ない俺に、先輩からさらに意味の分からない言葉が投げかけられる。どうなってるんだ? とにかく俺は生き延びたみたいだが……。しかし……。
俺の元へと辿り着いた十数人の人間は、俺を中心にして円形に広がった。そのメンツをよくよく見てみれば、その中には“わくわく☆海賊大制圧”で見た顔もあった。どういう事だ?
混乱する俺の元へ、一人の少女がほほ笑みをたたえながら向かってきているのが見えた。
その足取りは他の人間とは違い、随分とゆったりとしたもので、彼女が歩くたびに肩で切りそろえた真っ黒な髪がさわさわと風に揺れている。透き通るような白い肌の少女は、白いコートに白いブーツを身に付けていた。
そして俺の眼前で歩みを止めると、圧倒的な“白”は赤い唇を開いてこう言った。
「おめでとう御座います」
何がだ……? しかしその言葉は俺に向けられたものでは無かった。彼女に答えたのは……先輩だ。
「ありがとうございます!」
先輩は笑顔で少女と握手を交わす。
「これであなたは借金を全額返済完了ですね。いよいよですよ、次からはあなたも幸せの仲間入りです」
「はい! 頑張ります!」
どういう事だよ……なんだよ……コレは……!
「なんなんだよっ!」
自分でも驚くほどのデカイ声が出た。先輩は目を丸くして俺を見ている。あの、いつもの澄んだ目で。
「あのね……」
先輩が口を開いたが、それを少女が手で制した。
「私から説明しましょう」
先輩は「そうですね」と言っただけで、すぐに下がった。
「これはね、幸せの為の儀式なんですよ」
俺は少女を睨みつけた。
「つまりはこうです。あなたは私達の組織と死の契約を交わした。しかし気が変わった。
何も珍しい事ではありません。よくある事例です。そして生き延びる為にあなたはチャンスを買い、現在私達の組織に一千万の借金があります」
先輩はただただ微笑んでいる。
「一千万、普通に働いていては返済はいつになるでしょう? しかし、あなたはラッキーです。とっても幸運なんですよ。」
何がだよ。クソっ。
「メールを送るんです。あなたが受け取ったように。『一千万で殺害されてみませんか?』それだけでいいのです。そしてその相手があなたのように契約を交わせば、あなたの元へは百万円を振り込みましょう」
何を言っているんだこの女は? 俺の頭は今にも発狂しそうなくらい混乱している。そんな俺の様子には、まるで気にも留めないで少女は語り続ける。
「つまり、あなたが十名との契約を成功させれば借金はチャラ。さらにその後の契約は全て現金として入手出来るのです。一人につき百万。ボロイと思いませんか?」
先輩の言葉が耳の奥でこだまする。
――君は私の――