人間屑シリーズ
乗船口が見えた。
時刻は午後五時四分。少しばかり待ち時間は短縮されたようだった。
乗船口で船を待っていると、タイミングよく俺のハンカチが巻いてない方のグループが来た。
「黄色い船でお願いします」
二度目。もう係員の女性も諦めたといった感じで、すんなりと乗せてくれた。ウチュウくんのスタンバイもばっちりだ。
「行ってらっしゃい!」
マニュアル通りの声に見送られ、俺を乗せた船は出発する。幸せの黄色い船の出港だ。 進み始めた船の中で最後の探索作業を開始する。
ライトで照らしながら、まずピストル付近。……無い。安全ベルトの隙間。……無い。座席の下、すみずみまで光で照らし確認する。……無い。なるほど、マットか? マットの下か。マットをめくる。……無い!
なんで無いんだよ!? マットを全て引きはがし、むき出しの鉄板に顔をこすりつける勢いで探す。
無い! 無い! 無い!!
悄然としていると不意にピュッ! という音共に、頬に冷たい感触が触れた。何だ?
「あはは! やめなよ! あの人なんか真剣だよ?」
「ばっか、これこういう乗り物じゃねぇか!」
声のする方を見ると、同じグループで乗船したカップルが俺に向けて水の入ったピストルを発射していた。
ピュッ! ピュッ! ピュッ! と軽快な音を出しながら、水が吹きつけられる。さらに最悪な事に、カップルにつられて他の乗客も攻撃を開始してきた。
三つの銃口が俺に向けられる。
やめてくれ……。やめてくれよ……。俺は今それどころじゃなくて……。俺は今見つけなきゃ、水じゃなくて鉛を打ち込まれるんだぞ……!
「やめろおおおおおおおおおおおっ!!」
立ち上がると、震えるほどに叫んだ。
「ちょっ! やめたげなよー。」
「あはは! コイツ、マジおもれーわ」
けれど水は止まなかった。むしろ攻撃は増していき、全身がどんどん水に浸食されていく。ああ……あと数分後にはこの水が赤色に変わるのか? なんで……。なんで……。
「なんで無いんだよーーーーーーっ!!」
俺が叫喚いたその時、船はちょうど乗船口に戻った所だった。
マニュアル女が冷やかな目で俺をねめつけながら、無線に手を伸ばす。
「やめろ! やめろ! やめろおおおあああああ!」
叫び、逃走。捕まる前にとにかく逃げなくては。
うわああああ! という声が自然に喉から洩れた。なんでだ! なんで! いや、それより時間は? 時間はどうなってるんだ!?
ぐるぐると廻る思考の中で、怯えながら時計を見た。時刻は午後五時十三分を示していた。ヤバい、もう本当にヤバい!
急ぎメールの履歴から再送信する。
『ヒントをくれ』
メールは待ち構えていたかのようにすぐに返ってきた。
『海が見えるアトラクションは観覧車ですよ』
――――っ!
返信されたメールを見るなり、引いていた血の気がさらに引いた。なんてこった……! 俺は完全に思い間違いをしていたのだ。確かに観覧車の頂点からは、この街全ての“海”が一望出来るじゃないか!
間に合うか!?
考えるまでも無く走り出していた。黄色の観覧車に乗りさえすれば! 間に合いさえすれば! 俺は……俺は……!