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人間屑シリーズ

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「お帰りなさい!」
 マニュアル通りの声で出迎えられる。船から降りる前に係の女性に一つの嘆願をしてみる。
「すみません、次はこれとは別の方の黄色い船に乗りたいんです。こちらに目印を付けさせて下さい!」
 丁寧に頭を下げた。必死だった。なりふりなんか構ってなどいられない。
 係員の女性が戸惑っているのが、頭を下げたままでも雰囲気で分かる。だが了承して貰えるまでは、この船を降りるわけにはいかない。
「……分かりました。目印とするものを出して下さい。危険物で無いか確認させて頂きます」
 良かった! 断られなかった。これで俺は助かった!
 喜びを胸に秘め、俺はポケットをまさぐった。ポケットからヨレヨレのハンカチを取り出すと女性に手渡した。余りに汚いハンカチだったので女性は眉根をひそめたが、それでもやはりマニュアル通りに点検しハンカチを俺へと戻す。
「確認しました。どうぞ」
 俺はハンカチを受け取ると、ピストルホルダーに固く結びつけた。
「有難うございました」
 もう一度頭を下げ、下船する。相変わらずの奇異の視線が痛かったが、もうすぐ終われるという安堵感が俺を支えた。

 再び最後尾に回り、列へと加わる。
「はーーーっ」
 自然と深いため息が漏れた。
 この馬鹿らしい一週間もあと一回“黄色い船”に乗れば終わる。終われる。

 終わったら警察に行こう。犯人は捕まらないかもしれないが、俺の借金の契約破棄位は出来るはずだ。そうして全てが済んだら……。
 ……全てが済んだら親父の墓参りに行こう。ちゃんと就職活動をして、正社員としてもう一度頑張ろう。そうして貰った初めての給料は、母さんと弟と飯でも食いに行ってもいいかもしれない。先輩にだって礼をする。いや、先輩には……。
 俺がちゃんとしたら、先輩にはプロポーズしよう。断られてもいい。先輩の傍に一生いたいと願う人間がいるという事を伝えられるだけで十分じゃないか。
 ハルトさんにだって会いたい。あの浮浪者のオッサンには……そうだな、ワンカップくらいは奢ってやるか。
 そんな事を考えていると無意識に口の端が上がっていた。微笑むなんて……いつ以来だろう。……もう何年も俯いて生きてきた気がする。

作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文