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人間屑シリーズ

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 二周目、無い。
 三周目、やはり無い。
 四周目もスイッチは見つけられなかった。

 そして五周目に入ろうと船を降りた俺の目の前には、信じられない光景が広がっていた。
 そこにあったのは長蛇の列――四周目の乗船の時までは並んでいる人間などいなかったのに。なのに……今は……。
「なん……なんだ……」
 最後尾へと向かおうと列を逆向きに追って行く。アトラクションをとうに抜けても、列はまだ続いていた。
 そしてやっと目視した最後尾には“二時間待ち”の看板が立てられていた。じょ、冗談じゃねぇぞ! 一周二時間? まだあと八隻残ってるんだぞ!

 列の横をすりぬけ再び乗船口まで駆け抜けると、マニュアル通りの係員に今にも掴みかかりそうな勢いで、俺は懇願した。
「すみません! 探しているものがあるんです! だから、俺は列には並べないんだ! 分ってくれますよね?! 俺はもう何周もしてて……!」

「何だあいつ?」「キモッ!」「ウチュウくん持ちすぎ。マジウケる」「見ちゃダメよ、何されるかわかんないわ」

 背後からは聞きたくもない言葉が聞こえてくるが、気にしてなどいられない。俺は命がかかってるんだ!
「お願いしますよ! ねぇ!」
「おいテメェいい加減にしろよ」
 係員に必死に哀願していると、ふいに肩をに掴まれた。視界の端で俺の肩を茶髪でガタイのイイ兄ちゃんが掴んでいた。構うものかと俺はその手を振り払った。
「テメェ……!」
 何なんだこの男は! 俺の何がそんなに気に入らないんだ! こっちはお前に構っている暇はない! 命がかかってんだぞ! お前みたいに女の前でイイカッコしたいだけのカスとは違うんだよ! もう知るか! 乗ってやる! 乗ってやるぞと無理やり列に割り込んだその時――
「お客様!」
 強引に乗船しようとした俺を、咎めるような視線付きで係員が呼び止めた。
「お客様、それ以上なされますと他のお客様のご迷惑になります。警備の方に来て頂き、大変残念ではありますが当園から退園して頂く事になります」
 そ、それが……それがここのマニュアルかーーーっ! クソが! クソが! クソがーーー! 
 俺の憤りも虚しく、マニュアル女が無線を取り出す。や、やめてくれ! 昨夜の事もある。それだけはマズイ!

「すみませんでしたーーーーーっ!!」
 俺、土下座。迷うことなく超土下座。地面にべったりと額を付けて、係員の前にひれ伏した。暗がりの中、俺の腰では十本のウチュウくんがウィンウィンと音を立てて、回転しながら光を放っている。はっきり言って異常な光景だ。

 数秒の間、ウィンウィンというウチュウくんの回転音だけが辺りを支配し、やがて係員は小さなため息を一つつくと、重々しく口を開いた。
「……分かって頂けたのなら結構です。今後、他のお客様のご迷惑になるような行為はお控え下さい」
 マニュアル女の声が頭上から響いた。

「マジキモっ!」「本物だよ、アレ……」「ヤバいって、マジ。見んな」「コワ〜」「え? 逆にオモロくない? 超シュールなんですけど」
 俺の内情を知りもしないクソ共のクソ以下のざわめきが耳につく。クソッ!
 耳を塞ぐようにして俺は立ち上がり、駆け足で列の最後尾へと向かった。時間は無い。こうなった以上一刻の猶予だってないのだ。

 最後尾に着き並んでいる間も、周囲の不審の視線とヒソヒソ声はおさまらない。好きに思えばいい。知るか。お前らがどう思おうが俺には関係ない。そんな事より俺には考えなければならない事があるんだ。この列に大人しく並んだって、このままでは絶対に時間内にスイッチを探し終わる事なんて不可能だ。残された時間で出来る有効な事はヒントを買う事、それだけだ。
『ヒントを買う』
 何度目のやり取りだ? 八度目か? アホらしい。これで死んだら俺の命は二百万だぞ。同時に生き延びても借金は八百万か。返せるのか。……いや、生き延びたら訴えてやる。警察にも通報する。そして先輩と幸せに暮らすんだ。その為なら、この程度の恥は何てことは無い。気持ちを強く持て俺! 

 周囲の視線に耐えながら鼓舞していると、四分後にメールは返ってきた。
『頑張ってるみたいだね。特別に大サービス! 正解は黄色☆ 黄色だよ! 幸せの黄色いハンカチっていう映画知ってる? アレいつか君と一緒に見てみたいなぁ〜(笑)』
 (笑)じゃねぇよ! 激しくツッコミを入れながらも、心のどこかで安堵した。やはりこのアトラクションで間違いはない。海の見える黄色いアトラクションはこれ以外は考えられない。
 黄色い船は二隻。列に一度並ぶと二時間。今の時刻は午後一時二分。二か所調べたら終了時刻は午後五時十八分。多少の待ち時間のズレはあるかもしれないが、何とか午後五時三十分までには間に合いそうだ。
「はーーっ」
 息を深く吐き、落ち着きを取り戻す。大丈夫、大丈夫だ。ここの黄色い船のどこかにある事は、もう分かったのだから。
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文