人間屑シリーズ
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午後三時を過ぎた頃、やっとの思いで港駅に着くと既に先輩は到着していて、俺が来るのを待っていてくれた。落ち着かない様子で立っている先輩を見つけると、俺は一気に駆け寄る。足音でこちらに気づいた先輩は俺の姿が視界に入ると、こちらに向かってひらひらと手を振ってくれた。息を弾ませたまま、先輩の元に辿り着く。
「どこから探そうか?」
挨拶をする時間をも惜しむかのように、早速先輩は尋ねてくれる。
「この臨海地区のどこかである事には間違いないと思います。尚且つ海が見えるというと……」
俺はぐるりと周囲を見回す。真っ先に目に飛び込んだのは夜景が綺麗と評判の高層ホテルだった。
「ホテル……なのか……?」
「ホテル? 確かに海が見えるけど」
海が見える場所。“俺の住む街のどこか”なんて範囲からしたら、はるかに範囲は絞られた。だが、だからといってあの小さなスイッチを探すなんて絶望的だ。
「ヒントを……もう一度買おう……と思います」
唇の端に力を込めながら吐き捨てる。
「いいの? だって……そんな……」
いいかどうかじゃない。問題はそんな所にあるんじゃない。そんな事は分かりきっているのだが、正直やはりまだ踏み切れない自分がいる。残り一日と二時間弱、その間に本当に見つけられるだろうか。もし見つけられなかったら……?
このままヒントを買い続けてそれでも見つかられなかったら俺の命はゼロ円だ。タダでサイコパス野郎の遊びに付き合わされて殺されるだけだ。今なら俺の命は五百万。どうすればいいのか、何が最善なのか、いやそもそも――
「っ」
右手が急に温かなものに包まれて、錯乱しそうな意識がふと右手に飛ぶ。俺の右手は先輩の両手に包まれていた。
「もう少し、頑張ってみよう。とりあえずホテルまで行ってみようよ」
俺の心をまるで見透かしていたかのように、うつむき加減のまま先輩は優しく言葉を紡ぐ。
「……はい」
先輩の細い手をそっと握り返す。ぎゅっとお互いの手を握りしめ合いながら、俺達は駆け出した。
残り後二十四時間