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人間屑シリーズ

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            *

 翌朝七時、メールが届いた。

『契約の確認が出来ました。頑張ってチャンスをゲットだぜ☆』
 開いたメールに書かれたその内容に、俺は心底ムカついた。チャンスをゲットだぜ☆じゃねぇよ! 
 しかしその苛立ちも、続きに書かれた文章に目を通すと急激に冷めていった。
「なんて書いてあったの?」
 心配そうな先輩の声。けれど、ああ……。
「……不可能ですよ。こんなの……」
 自分でも驚くほど絶望的な声が出た。届いたメールにはその“チャンス”の内容がまるで危機感の無い文体で表示されていた。
『君の住むこの街に<死にたくないよ〜スイッチ>を用意しましたー☆ 残りの時間内にスイッチオン♪ で殺害契約解除だぴょん! 頑張るぴょん!』
 唖然として携帯を握りしめる俺の横で、先輩もその内容を確認している。
「……ふざけてるの……コイツ……」
 ひとしきりメールを読み終わると先輩は、綺麗なその唇を噛み締めながら吐き捨てた。
「この街の中から見つけろって……そりゃ……いくらなんでも無理ですよ。大体このスイッチの形すら分からないのに……」
 失意の中竦んでいると、耳慣れたメール着信音が狭い自室に鳴り響いた。今の俺にメールを送ってくるヤツは一人しかいない。このサイコ野郎だ。素早くメールを開く。
『ヒントあるよ〜〜〜。ヒント。安いよ安いよー。一つ百万円だよー』
 馬鹿にしやがって! クソッ! だけど俺には選択権なんかない。コレを買わなきゃどの道死ぬのだから。買ってやるよ、畜生! ああ!

 俺はメールに書かれたURLにアクセスし購入欄をクリックした。昨日契約書に書いた口座から、日々残金分が引き落とされていく手はずになっているようだ。

 五分ほど待つと添付ファイ付メールが送られてきた。
『お買い上げ有難う御座います。では、お受け取り下さい。コレがスイッチです☆』
 急いで添付ファイルを開くと、そこにはファミレスとかによく置かれている店員を呼ぶスイッチが写っていた。スイッチの下部に<死にたくなくなったら、お気軽にボタンを押して下さい>と書かれているのが心底ムカついた。
 だが、真剣に考えなければならない。このスイッチを残り一日半で見つけなければならないのだから。こんなしょーもないものを、文字通り命がけで探さねばならない。
「こんなどこにでもあるスイッチ見つけるなんて無理よ!」
 先輩が吐き捨てる。無論、その通りだ。そして状況を打開する方法はただ一つ、より多くのヒントの購入だ。
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文