人間屑シリーズ
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どこから人が出てきたんだという程に人で溢れかえった街を駆け巡り、俺達がアパートの前にたどり着く頃には既に日が暮れ始めていた。
急ぎメールポストを確認すると、A4サイズの茶封筒が威圧感を放ちながら存在していた。
封筒を開け中身を確認しながら自宅へ入る。
「なんて書いてあるの?」
先輩が心配そうに覗き込む。
俺は書類に一通り目を通し、内容を説明する。
俺は一千万で命を売ったので、このチャンスをモノに出来なければ当然その報奨金としての一千万からそのチャンスを購入した金額は差し引かれるという事。生き延びる事が出来れば、借金として返済していく事。そして返済用のローンの契約書ともう一つ、メールでの決定事項は絶対であり、それを了承するという内容の契約書の二通が添付されていた。
迷っている時間は無い。俺は急ぎ署名し、印鑑を引っ張り出し二通の契約書に捺印した。
「……それ、どうすればいいの?」
「それは、こっちのメモに書かれてました。このアパートの近くの公園のベンチに置いておけって」
「行こう!」
先輩の目が俺を射るように見つめると、体中に力が溢れるような気がした。書類を封筒に突っ込み、アパートから数分の小さな公園へと向かう。
*
辿り着いた公園に人気は無かった。
俺と先輩は書類を指定されたベンチに置くと、公衆トイレの影へと身を潜める事にした。
あの書類を取りに来たヤツを捕まえれば、こんな悪ふざけも終わりだ! 古びた建物の裏に隠れながら注意深くベンチを見張っていると、先輩が俺の後ろから心配そうに声をかけてきた。
「ホントに来るのかな」
「来ないと困りますよ、俺」
「うん」
寒い。こんなクリスマスに臭いトイレの壁を背に、何をやってるんだろうと自嘲気味に思った。でもこんな俺に付き合ってくれる先輩の方がよっぽど可哀想じゃないか。せんぱ……と声を掛けようとしたその時だった。
「キャッ!」
背後から先輩の小さな叫びが聞こえた。振り返ると先輩が反対側の壁の影から伸びた手に腕を掴まれていた。
「先輩!」
先輩の腕を締め付ける手を掴もうと駆け寄ると、その手は先輩から離れた。反動で先輩が俺の方に倒れこむ。
「先輩? 先輩!」
「だ……大丈夫……それよりベンチは?」
ハッとしてベンチへと駆け寄ると、そこには既に書類は無かった。
「やられた……」
俺はただただ呆然と立ち尽くしていた。