人間屑シリーズ
六日目
百万! いきなりそんな事を言われても、俺にはそんな金は無い! だけど死にたくも無い! どうしたらいいんだよ! 苦悩する俺を尻目にメールは事務的に流れてくる。
『つくづくな方ですね。では、ローンという事でよろしいですね?』
よろしいも何も俺には選択権など無いじゃないか。……どうしてこんな事に。つくづく五日前の自分のアホさ加減が悔やまれる。
『では、あなたの自宅のメールポストに契約書を入れておきます。中身を確認し署名捺印の後、指示に従って下さい』
このメールを受け、俺が急ぎ身支度を済ませると先輩も同じように急いで着替えてくれていて、一緒について行くと申し出てくれた。
「こんなに気味が悪いことってないよ。絶対にこいつらのいいようになんかさせない」
そう言って先輩は俺よりも先に廊下へと続く重い扉に手をかけた。ああ、先輩! 俺はあなたと再会出来た事を心から感謝します! そうだ、俺は絶対に生きてみせる……!
*
ホテルを出て俺達は急ぎ俺の自宅へと向かった。こうしている間にも俺の寿命は刻一刻と無駄に削られていっているのだ。急げ、急げ、急げ! 急げ俺!
暗いホテルから飛び出した世界はクリスマスのイルミネーションに飾られていて、ひどく眩しく映った。どこもかしこも恋人達で溢れ帰り、幸せの色で満ちていた。幸せの群れの中を必死に駆け抜ける。ああ、畜生!
やっとの思いで地下鉄の駅に到着すると、急ぎ乗り込んだ。一刻も早くあのボロアパートに帰らなくては。列車は満員で、周りの人間は何がそんなに楽しいのか、皆晴れやかな顔をしている。周囲の幸福のざわめきが俺の中に殺意をわかせた。満員列車特有のむせ返る臭いは俺に吐き気を覚えさせる。クソッ! ああっ! クソッ!
苛立つ俺の手の甲に、そっと冷たくて細い指が触れた。先輩の白くて長い指。
「大丈夫。君は死なない」
小さく囁くようにそう言った先輩の指をそっと握り返した。たったそれだけの事で、わきあがった周囲に対する殺意は、砂城が波に攫われていくかのように消えていく。先輩……。
今度は強く先輩の手を握った。先輩もそっと握り返してくれる。この繋がりが、ともすれば我を忘れそうな俺を現実に繋ぎとめてくれているような、そんな気がした。
俺が無事に殺されずにすんだら、その時は――その時は……。