人間屑シリーズ
*
ホテルの指定された部屋のチャイムを鳴らすと、ピンポンという音共に中から先輩の声が聞こえた。ガチャリという音を鳴らして重そうな扉が開く。
「いらっしゃい」
そう言って中から現れたのは、胸元の大きく開いた真っ白なブラウスに黒いパンツを合わせた先輩だった。髪は高く結って合って、ちらりと見えたうなじに思わず生唾をごくりと飲んでしまった。
「あ、あの、コレどうぞ」
緊張を悟られまいと必死になりながら、花屋で買ってきた薔薇を手渡す。たったの三本。俺には束になる程の薔薇すら買えなかった。
「有難う、綺麗ね。さ、入って」
そんな俺を特に惨めそうに見つめるわけでもなく、先輩は嬉しそうに薔薇の香りを嗅ぎながら室内へと入って行った。
「食事はルームサービスで用意させてあるから」
告げながら細長いグラスに薔薇を生けると、先輩は豪華な食事の乗ったテーブルに着いた。俺も慌ててその向かいに着席する。
「乾杯」
そう言って俺のグラスに自分のグラスを合わせると、中に注がれたシャンパンを先輩は一気に飲み干した。
先輩は料理がどうのとか、俺が来るまでの間にどうしていただとか、そんな事を色々と話してくれていたように思うが、俺は完全にオシャレイブな雰囲気に飲まれていて、半分うわの空といった状況だった。
ただチラチラと目に入る先輩の胸元やうなじばかりを目で追っていたような気がする。そんな俺の視線を特に嫌がるでもなく、先輩はほんのりと上気した顔で優しく見つめる。ああ、もうダメだ俺!
「……っ!」
自分でも驚くほど自然に、先輩の事を抱きしめていた。いきなりの俺の行動に先輩は小さく息を飲んだけど、拒絶はされなかった。
「先輩、好きです。俺……ずっと……」
先輩の耳元で俺はそっと囁いた。こんな真似を自分が出来る人間だとは、たった今まで知らなかった。
「ね、私の事、本当に好き?」
そう言うと先輩は俺の肩を少し押して、俺と距離を取った。その潤んだ瞳は俺の脳下垂体を直撃した。
「好きです」
口から出た声は自分でも驚くほど真摯なトーンだった。
「そっか。じゃあ……私がスカート穿かない理由、教えてあげるね」
俺が好きだと告白し、加えてイブのこの夜にホテルで二人きりと言う状況で、なぜそんな事を言われるのか全く検討もつかなかったが、俺には「はぁ」と生返事を返す事位しか反応が出来なかった。
先輩はそんな俺をどう思っているのか、やおらベルトを外し始める。確かに先輩がスカートを穿いているイメージは無い。だけどそれが一体なんだと言うんだろう? なんでこのタイミングでそんな事言うんだ?
俺は黙って先輩を見つめ続けていた。先輩のベルトは外され、間もなくトサッっという音を立てて、先輩の足を隠していた黒い布が床に落ちた。そして俺は――あらわになった先輩の下半身を見て、思わず息を飲んだ。