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人間屑シリーズ

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ある刑事の独白



 メールで命を売るという例の事件は主犯の少年の自殺という形で幕を閉じた。
 共犯の少女は目の前で飛び降り、ひしゃげた少年の残骸を確認した後――錯乱した。
 自殺をして逃げたと非難する者に対し、少女は「自殺じゃ無い! クロは飛んだだけ! 翼を広げて飛びたったの!」と喚き散らすばかりだった。

 少年は美しかった。ネット上では保護法など関係無い。一度ばら撒かれた少年の姿はどこまでも広がっていった。
 少年は色素性乾皮症を患っており、太陽の元へさらけ出す事が出来ない体であったようだ。その容貌と共にマスコミはこれをセンセーショナルに報道した。
 そういう報道合戦の中で公開されていく情報はどれも、少年が生きていたら彼の心を深く抉るようなものばかりだった。
 少年の両親は、少年が幼いころに彼の病に対する意見の違いにより離婚していた。
 弁護士の母は離婚から三年後に新しくジャーナリストの男と再婚。
 だがこのジャーナリストの男は少年に性的虐待をしていたらしい。
 弁護士の母は仕事が忙しく、昼の間に家に帰る事は無い。
 ジャーナリストの男はまさにその昼に、取材と称し職場を離れ帰宅していた。逃げようにも少年には逃げ場所が無い。なぜなら少年は色素性乾皮症で家からは一歩も出られないのだから。

 男は関係を否定しているが、少年の自宅から発見された手記の余りの生々しさに黒と判断されつつある。
 男は少年を心から愛していたという。それは性的な意味などでは断じてないのだと、男はそう主張している。その言葉の通りに男は少年の望みなら何でも叶えていた。報道前の事件の詳細すら少年にリークしていたのだ。

 このジャーナリストのもたらした情報は少年の計画にとって決め手となっていた。少年なりの復讐方法だったのかもしれない。
 弁護士の母はというと、少年を憐れむあまり何でも言う事を聞いていたという。彼が住みたいと言えばマンションも与え(最もこれは男と少年の関係をうっすら感づいていたからかもしれないが)少年が法律の勉強がしたいと言って要求した契約書も、事務所の者に作成させていたようだ。

 現在母親は共犯の少女の弁護士として名乗りを上げている。だがその望みが叶う可能性は薄い。母親とて、この事件に全くの無関係とは言えないのだから。

 少年と少女がこの五か月間程の間に集めた会員数は七十八人。驚くべきスピードだったといえる。内死亡者は八人。この罪は重い。現在少女が殺害にどれほど関わっていたかを捜査中だ。しかしどうも少女は殺害自体には関わっていなかったと見られている。
 また実際に『一千万で殺害されてみませんか?』というメールを受け取った人間の数は最早はかり知る事は出来ない。
 会員の中からも逮捕者は出ている。しかし彼らの罪はまずこの少女と、既にこの世にいない少年が裁かれてから決定するだろう。この事件の捜査はまだまだ終わりそうにない。

 刑事になって以来、後味の良い事件になど出会った事が無かったが、この事件の後味の悪さもまた相当なものだ。
 ふぅっとため息を一つ吐くのと同じタイミングで、携帯がメール着信音を鳴らした。
 送信者を見ると妻からだった。
 すぐに開いて文面を追う。
『あなた、今日は私達の十四回目の結婚記念日ね。今日はあなたの好きな物をたくさん作っておくわね。お仕事大変でしょうけど、無理なさらないでね』
 思わず顔が綻んだ。そうだ、今日は結婚記念日なのだ。
 帰りには花を買っていくとしよう。
 無理などするわけもない。所詮これはただの仕事だ。被害者には同情もしよう。だが俺は今幸せなのだ。

 あの星の落ちる日に、俺は妻を生涯愛し抜く事を再び誓ったのだから。    



作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文