人間屑シリーズ
「行こう! クロ!」
そう言って私はクロの左手を握ると玄関に向って駆け出した。
「シロ?」
クロは私に引き摺られるかのようにして、歩みを進める。
「クロ、あなたを一人になんかしない。逃げよう、クロ。どこまでも! 私はクロとなら世界の果てまでだって行けるの!」
私はクロの左手を強く強く握りしめる。クロは少し逡巡したが、私がクロに向って微笑むとクロも同じように笑って――私の右手を握るその手に力を込めた。
「行こう、シロ!」
私とクロは黒い箱から外の世界へと飛び出した。
夜明けは近い。東の空が白み始めている。クロは吸血鬼であの黒い箱から出てはいけないのに。けれどここにはもういられない。ああ、クロ! パパ、ママ……ごめんなさい!
私とクロは階段を転げ落ちるかのような勢いで下って行く。警察になんか捕まるもんか。誰も私達を理解なんてしてくれない。理解出来ない者が私達を裁く資格なんて無い!
お互いの手を強く握りあいながら、マンションの裏口から表へ飛び出す。
「――――ぞっ!」
遠くで大人の男が怒鳴りあげる声が響き渡った気がした。
でもそんな事には構ってなんていられない。
私達はどこまでも走り続けるしかない。
クロは私のパパは殺さないと言った。それは今まで自分がしてきた“食事”を“殺人”だと認めるという事。
それでもクロは私の悲しみをぬぐい去る方を選んでくれた。そして私を……私だけを逃がしてくれようとした。私はクロを見捨てない。こんなにまで私を思ってくれたクロを残して、一人だけで逃げるような真似はしない。
私はシロで、彼はクロ。私達はいつも同じで無くてはならない。二人で一つなのだ。
私が“しろ”である限り。