人間屑シリーズ
クロと一緒に過ごしてきた。あの雨の日に自分の事を吸血鬼と言って微笑んだクロ。世界を狂気に染めると言って、私の心を救ってくれたのはクロ。組織の計画を練って一緒に実行したよね。クロは食事をすると言って人を殺した。でも私はそんな事ちっとも怖くなんて無かった。それどころか罪の意識すら持たなかった。クロはクリスマスに私に“白”をプレゼントしてくれた。私は“白”に包まれてどこまでもどこまでも強くなれる気がした。この黒い箱の中で、私達はいつも一緒で……。ファンタスティックプラネットが好きなクロ。私の作ったトリュフチョコレートが好きなクロ。桜が好きなクロ。クロは綺麗で賢くて、そしてどこか寂しくて。それから? それから?
ズキンっと頭の後ろの方で痛みが走る。頭痛はより一層酷くなっていた。
頭が痛い。考えられない。でも考えなきゃ。私はクロに何て言ってきたの? あの日“幸福の黄色いハンカチ”を見てクロはなんて言ったの? それに私はなんて答えた?
『一緒に地獄へ落ちるわ』
そう、私はそう言った。どこまでも堕ちていくと決めたのに。ああクロ! どうして? もっともっと違う形で過ごしたかった。もっと普通に……例えば私達が馬鹿にしたあの恋人達のように。お互いの名前を呼んで陳腐な言葉を羅列して過ごせていたら、どんなに幸せだったろう! ああ、クロ! クロ! 私まだ、あなたの本当の名前も知らない!
――――――ゥッ ―――――――ゥゥッ
ふいにサイレンの音が鼓膜に届いた。
クロはカーテンを開けると外を確認し、そして素早く閉めた。
「警察だ」
クロが呟く。
「警察?」
「ああ……」
クロは俯いた。もしかして私達を? どうしてここが? ううん、それ以前にどうして私達が?
「シロ、君は何も知らない。この組織に関わってなんかいない」
クロは私に背を向けたまま言葉を紡いだ。
クロ……。そんなのは嫌だよ。
私は――――
……私はあなたと地獄に堕ちるって決めたの。