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人間屑シリーズ

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          *

 クロはあの黒い箱の中にいた。いつもと同じように微笑みながら私の帰りを待っていた。
「お帰り、シロ」
「クロ! お願い、次の契約者はパパなの! だから……」
 玄関の扉を開け、クロの顔を見るなり私は必死に訴えた。そんな私を見てクロはにっこりと笑ったままこう言った。
「だから?」
 クロの笑顔に初めて心から恐怖を感じた。
「だから……って」
「契約者は君のパパだった。それが一体どうしたっていうのさ。他の契約者と同じ人間だろう」
「……違う」
「違わないよ、シロ。君は一千万を家族に残せると願って僕の食事になった人を見てなんて言った?」
 私がなんて言ってきたか? 今まで私はどうしていたか? 家族にお金を残して死ねると願った男に私は何て言った? ……ダメだ。頭が混乱して思考がまとまらない。記憶から答えを導き出す事を、脳みそのどこかが否定している。分からない……。分からない……!
「……分からない」
「バカだと笑ったんだよ、シロ。君は笑ったんだ」
 クロが示した回答に、背筋が凍りついた。
 ……そう、確かに私は笑っていた。否定したい記憶が脳裏を掠める。自分のケラケラとした笑い声が鼓膜に蘇る。そうだ、私は嘲笑った。いつも! どんな人間も! その背後にある辛さには目を向けずに!
 だくだくと涙が溢れて止まらない。なんで私は……なんていう事をしてきたのか……。クロの食事となった人達。彼らは愛する者に一千万を残せるという希望を抱いて死んでいった。本当はそこに救いなんて無かったのに。こうしている今もなお契約者達は苦しんでいる。自分の命をかけて必死に奔走している。そしてそんな組織に対して、自分の体を売ってまで抵抗しているミカ……。
 私……私は……。
「シロ」
 クロが優しく私を呼ぶ。
「シロ、君はまだ戻れる」
「え……?」
「君は人を殺めたわけじゃない。僕の命令に従って、組織を動かしていただけだ」
 クロが囁くようにそう言った。
「何言って……私は……」
 私の方がクロよりずっと楽しんでいた。自主的に動いていた。なのに……。
 すっとクロの左手が私の右手に触れた。その温もりに瞬間、私は動揺してしまう。
「戻るんだ、シロ。君の事を待っていてくれる世界へ」
 そう言ってクロが微笑む。いつものように。
 さっきまでの氷のような冷たさは、もうそこには無かった。
「さよなら、シロ」
 クロはそう言って、そっと私の右手からその左手を離す。
 クロと私の境界が広がる。
「君のパパを殺したりはしないから安心して」
 クロは静かに微笑んだままだ。これで終わりなの? 私はここでクロと別れるの? クロは一人でどうするの? 組織は? 私は……私はクロを見捨てるの?
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文