人間屑シリーズ
*
時計の針が午後三時を少し回ろうかという頃に、ようやくクロは目覚めた。
「うーん……」
大きく伸びをすると洗面台へと向かう。
私は冷蔵庫からチョコレートを取り出し、ソファーに座ってクロが来るのをじっと待つ。
クロは何て言うかな? 驚いてくれるかな? 喜んでくれるかな?
水の流れる音が止まり、タオルで顔を拭くパフっとした音がする。
もうすぐだ。
顔を洗い終え、こちらに近づくクロに私は両手を伸ばして差し出した。
「はい、これ」
「ん? なに」
クロはどうしたの? といった顔で私に聞き返す。
「なにって……今日はバレンタインだよ! だから私が作ったの」
そこまで言うとようやくクロは理解したらしく、顔がぱあっと明るくなった。
「え? シロが作ってくれたの? 僕の為に?」
「そうだよ。他に誰に作るっていうの」
私は笑いながらそう答える。そういえばパパに作っていたのはいつまでだっけ? ふっと頭の後ろの方にそんな事が掠める。その間にもクロは「開けていい?」なんて聞きながら、すでに包みを開けている。
「うわぁ……! すっごい」
なんて喜びながら。トリュフは簡単なのに見た目が少しばかり大げさだから、この季節の女の子達にとても愛されている。
私はクロの顔をじっと観察する。
「食べていい?」
「もちろん。その為に作ったんだもの」
クロは一つトリュフを摘まむと一気に口の中へと放り込んだ。
「あまー。美味しいよ、シロ!」
本当に嬉しそうにクロが笑うものだから、私もなんだか本当に幸せな気分になってしまう。
そうだよね。これからもきっとこの組織を続けていけば沢山辛い事もあるよね。
辛い現実から逃げる為に私は狂気の世界に飛び込んだのに、結局はそこにも苦しさはあるんだもの。
だったら私はクロの笑顔を守りたい。クロの傍にこうしていつまでもいられるように、私はクロと過ごすのだ。