人間屑シリーズ
雑貨屋で買い物を済ませ表へ出ると、通りの向こうにミカがいた。
なんて言う偶然……。その偶然に心を奪われ、私は道路を挟んだ向こうにいるミカから、思わず目を逸らす事が出来ずにいた。
数秒後、ミカもこちらに気づいたらしく私達の視線はぶつかった。
――ミカの表情には何も無かった。
怒りも悲しみも憎しみも、本当に何も無かった。ただただ人形のように無機質で美しい顔を私に向けていた。
どうしていいのか分からない。彼女に何かを言うべきなんだろうか。けれど私の頭の中に用意された言葉は全て安っぽくて惨めったらしいものばかりだった。
ふいにミカが私から視線を外し、右の方へと視線を向けた。
そちらの方へと私も目を向けると、そこには三十過ぎ位の一人の男がミカの元へと向かってくる所だった。
男はミカの元へと近付くなり、馴れ馴れしく彼女の肩を抱いた。ミカはそれに嫌がるようなそぶりも見せなかった。
ミカの客なんだな、と漠然とそう感じた。
それ以上考えたく何て無かった。あの汚い大人にミカは汚されるのだ。いや、すでにもう何人もの男と汚らしい行為を重ねているんだ。なんて浅ましい行動! 自業自得で作った借金の為に自分の体を見ず知らずの人間に売るだなんて!
……けれどそれをさせたのは私だ。
他の人間を同じように嵌めて百万ずつ稼ぐのと、誰も騙さずに自分の体を売るのと……一体どっちが高潔なんだろう。それともやはりどちらも卑しい行動に過ぎないのか。
懊悩としているとミカは男と脇道へと消えていった。
脇道に入る瞬間に、彼女はチラリと私の方をもう一度だけ見た。その目はやはり無機質なままだったが、唇はあの日のように小さく動いたように見えた。
それを見た瞬間、私の鼓動は早鐘のように脈打ち暴れた。
思わずグッと右手を握ると、雑貨店の袋がカサリと音をたてた。
そうだ。そうだよ、そうなんだ。私はクロにチョコレートを作ってあげなくちゃ。
あの子の事なんて気にしてなんていられない。所詮は契約者の一人じゃない。私は計画通りに導いただけだ。そう、それだけなんだ。