人間屑シリーズ
「すごいです! C組アンカー! 次々と抜いていきます!」
これは放送部のアナウンスだ。俺の活躍に興奮した声がスピーカーから流れている。
「すごい! すごい! あっという間に4人抜き!」
ワァァァァァァァァァァァァッ! という大きな歓声が巻き上がる。スピーカーからのアナウンス以上に大きな、割れんばかりの賞賛の嵐が俺を包む。そうだ、俺は間違いなく祝福されていた。はっはっはっはっ、と規則的なリズムで息がはずむと、まるで機械のような正確さで俺の足は前へ前へと駆けていく。
「すごい!C組1位!C組1位に上がりましたー!」
ワァァァァァァァァァァァァッ! 喜びの叫びは、俺の足にさらなる力を与え続けた。そして俺はバンっという乾いた銃声と共にテープを切った。
「C組優勝でーーーーす!!!」
あの日の歓声が耳を支配している。聞こえるはずのないその声が、俺を包み込んでいる。そしてそれと同時に、はっはっはっはっとリズミカルにはずむ息の音も耳に届いている。これはいつだ? いつの息だ? あの日の輝いていた俺の呼吸の音か? それとも実家から逃げ出してきた二十六歳の屑の男の息か?
目の前にあるのは白い息。真冬に放たれた熱い息。はっはっはっはっ、と呼吸を整えても、もう歓声は聞こえない。ついさっきまで俺を包み込んでいた賞賛の嵐は消え失せ、代わりに数年ぶりに見た母と弟の顔が脳裏を占領しはじめた。そうだ、そうだ――親父は死んでしまっていて、弟が眩しくて母さんは泣いたんだ。
はーっはーっはーっはーっはーっ。リズムよく打っていた脈が乱れ始め、吐く息がいやに長くなる。はーっはーっはーっはーっはーっ。親父はもう喜んではくれない。弟は俺を尊敬なんてしない。母さんの飯を食べる事ももう二度と無い。はーっはーっはーっはーっ。喉から血の味が混み上がる。血? あの日の歓声はもう聞こえないのに、乾いたは銃声だけがふいに鮮やかに蘇る。
はーっはーっはーっはーっ。はーっはーっはーっはーっ。
そうだ、そうだ、そうだ! 親父は死んで弟は眩しくて、母さんは泣いて……! それで俺は? 血。乾いた銃声。そうだ、俺は……。
はーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっ。
俺は誰かに殺される。
はーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっ。
残り四日