小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

A Groundless Sense(4)

INDEX|4ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

 カツシと泉子は二度目の十三層探検で、カツシが上から落とした金庫を見つけ、壊れた扉の外に散らばっていた機密資料を回収した。保管室から持ち出した金庫は全体の半分、落として壊れたものがその半分で、情報は断片的なものしか得られなかった。それでも、世界の歴史やKYUTOの構造について、重要な記述がいくつか見つかった。
 今から二百年ほど前、常管のやり方に不満を持っていたKYUTOの一勢力『非常識派』は、武力をもって常管を倒そうという計画を立てていた。非常識派のリーダーの名は、長崎諫(いさむ)といった。
 保存科学研究所に設けた作戦室(旧会議室)に集まった四人は、この事実を前に、しばらくの間言葉を失った。
「この長崎って……」
 カツシは蘭を見た。
 千江は言った。
「これはあくまでも推測よ。常管KYUTO支部の打倒は成功し、KYUTOは独立を果たした。それもつかの間、スパイによる毒ガス工作によって、KYUTOはあえなく滅亡、閉鎖となった。長崎諫は執念深い男で、勝ち目がなくなったと悟ると、当時十二歳だった実の娘を洗脳、常管打倒の思想と戦い方のすべてを叩きこみ、試作機として唯一存在した冷凍睡眠カプセルに放りこんだ」
 すべて合っているとは限らないが、核心はついていると、カツシは思った。
「私、よくわかんない」
 蘭は口をとがらせた。
 戦いの天才が父親の方だったとすれば……カツシはそこでふと、洗脳科学研究所という言葉が浮かんだ。蘭は千江よりずっと前に、再生された人間だったのか?
「いいのよ。わかんなくて」
 千江は蘭を抱きしめた。
 蘭は千江の胸に顔をうずめた。
「蘭ちゃんは今の蘭ちゃんでいいじゃない」
 泉子の言葉に、カツシと千江はうなずいた。
 歴史はさておき、肝心なのはKYUTOの構造についての資料だった。
「これは、なんなの?」
 ある図面を見て、千江は首をひねった。
「世界を外側から見た図ってことじゃないの?」
 カツシは言った。
 KYUTOの断面図を作ったらこうなるだろうと思った。零層にシャトルのステーションがあり、その上に高さ二一三メートル五〇、幅の直径数十キロの層が二十三個積み重なっている。真ん中にエレベーター塔があり、最外部に環水道とKY区域もある。
「何もないはずの世界の外側から、誰が見るのよ」
 泉子は言った。
 KY区域の果てに壁があり、その外は無あるいはただの余白、というのがこれまでの常識だ。
「想像で書いた、とか」
 カツシは軽い気持ちで言った。
「見たことないものを、想像できるの?」
「さぁ?」
 余計なことを言ったと悔やんだ。
「この、第二十三層の上に乗っかってる板の群れみたいなのは、なに?」
 千江は『ソーラーパネル』と書いてある部分を指さした。
「ソーラーってなんだ?」
 カツシは泉子を見た。
「あ、あたしに聞かないで」
 カツシは千江を見た。
「私が聞いてんの」
「ごめん、俺もギブアップ」
 古い言葉の知識には自信あったが、今度ばかりはさっぱりだった。
「ねぇ、これなぁに?」
 蘭がふと、第二十三層の最外部、KY区域を指さした。
 よく見ると、ハシゴのようなマークが一本入っていて、天井まで通じている。
 カツシは言った。
「もしかして、本物の世界の果てが見られるとか?」
 図面では、ソーラーパネルは、世界の果ての余白と接しているように見えた。
「や、やめなさいよ。窒息するよ?」
 泉子はカツシの二の腕を引っ張った。
 何もなければ、まさに真空。彼女の言う通りどころか、一秒と体がもたない。
「確かめた奴はいない。いや、この図面を書いた奴が行ったかもしれない」
「一理あるわね」
 千江は言った。
「ちょっと!」
 泉子は千江を睨んだ。
「ま、ダーリンを失いたくない気持ちはわかるけど? このまま文献調査ばっかりしてても、どのみち常管に追いつめられるだけよ」
「ダ……」泉子は真っ赤になって言葉を飲みこんだ。「あたしたち、そんなんじゃないし!」
「二度もディープにインパクトしといて、それはないわよねぇ」
 千江はカツシに微笑みかけた。
 十三層廃墟の冒険譚語りは、残してきた者への義務だった。人工呼吸も例外ではない。
「……」
 カツシは肯定も否定もしなかった。ミナトのことを忘れたわけじゃない。だが、思春期という怪物は、一人でいることを許してはくれない。
 そんな浮いた話も、生き残ってこそできるというものだ。
「ソーラーパネルってのを建てた奴がいるんだ、少なくともそこまでは行けるってことさ」
 泉子が条件を出した。
「どうせ死ぬなら、みんな一緒がいい」
 千江はうなずいた。
「ま、残ってても同じことだしね。あーでも、探検先じゃ二人きりにしてあげられないけど、いいのかしら?」
「あーもう、わかったから、そういうのは全部終わってからにしてくれ!」
 カツシはテーブルの上の資料をかき回した。
「ようし、さっさと終わらせにいくわよ」
 千江が言うと、蘭は飛び跳ねてうなずいた。
「動機がおかしなことになってる……」
 泉子はため息をついた。


 18


 三日分の食料と水、武器弾薬、工具類、記録用具、最低限の着替え。
 準備を整えた一行は、図面に従い、第二十三層のKY区域を目指した。
 研究施設群のある工業区内のブロックは、最も外側を走る環状道路の近くにあり、環水道まで歩いて五分とかからなかった。
 水道のそばまできて、ここで裸になるのかと騒ぎになった。
 図面を見ると、大昔に常管が通したと思われる、隠された抜け道があった。
 第一のフェンスを越えて、草地のマンホール(電子ロックはなかった)をあけ、暗渠に入るところまでは、KANTOでミナトとやったことと同じだった。一行は幅五十メートルの環水道には入らず、地下水路の縁の足場をたどって暗渠の奥へ進んだ。
 図面通りの場所で、何の形跡もないコンクリートの壁を押すと、隠れていた扉がくるりと回って真っ暗な通路に出た。ライトをつけて階段を下り、四十分ほど歩いて、また階段を上ると、そこはもうKY区域の最奥部だった。
「へぇ、知らなかった」
 千江の声は暗黒空間に響き渡った。
 冷たそうな壁にライトを向けると、タラップが一本上にのびていた。
 常管の捜査官でさえ知らない、第二十三層だけの最高機密だった。
 あとはタラップを上っていくだけだ。意外とあっさり世界の果てに出てしまうのかと思いきや、問題が一つ持ち上がった。
「高さのこと、忘れてたよ」
 泉子の言う通りだった。
 各層は床から天井まで二一三メートル五〇。KY区域も例外ではなかった。
「こんなことなら、もっとジムで鍛えておくんだったわ」
 千江の言葉に、カツシは笑った。
「言うと思った」
「荷物持ってなんて、上れないよぅ」
 蘭が泣き言を言いだした。
 古代兵器研究所から持ちだした命綱のおかげで、休みながら上ることは可能だった。昔の蘭ならともかく、今の蘭は精神が小学生並みだ。根性論を持ち出しても無駄なことはわかりきっていた。
 千江は言った。
「仕方ない、蘭のリュックは置いていきましょ。パンツが臭っても文句は言わせないからね」
 蘭の荷物は主に全員分の着替えだった。
作品名:A Groundless Sense(4) 作家名:あずまや