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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹

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 一面、血の海だった。
「……え……」
 言葉が出てこず、意味不明の叫び声が耳に入ってくる。うるさいな、と思ったら、それは私の口から出た声だった。悲鳴だった。
「――――」
 放っておくといつまでももれ続けそうな自分の声に苛立って、私は口を押さえた。歯まで鳴り出すので、あごも押さえる。
 そして、目を見張る。
 夢でも幻でもないのだ、これが現実。
 血、血、血。
 生臭い、鉄臭い、目に鮮やかな、真っ赤な血。赤、赤、赤。一面真っ赤に染まっている。
 壁が血で、真っ赤に。床が血で、真っ赤に。食卓テーブルから血が滴って、みちゃみちゃと粘着質の音を立てている。
 みちゃ、みちゃ。みちゃ、みちゃ。
 ――――ぴちゃん。
「……あ」
 水音に、我に返る。そうだ、このリビングには血の主がいない。これだけの血だ、死んでいるに決まっているのだが、ここには肝心の死体がなかった。
 死体。死体。したい、シタイ。
 …………誰の?
 父だろうか、母だろうか。それとも、もっと別の――?
 私はよろよろと、リビングのドアを開けた。

 一面、血の海だった。
――……はあ?
 呆けたように呟いて、俺はリビングのドアにもたれた。
――……何だよ、コレ。
 意味、わかんねえ。
 リビングが血だらけだ。……ってか、これって血だよ……な。粘着質の……赤い、液体。
――鉄臭いし……やっぱり、血だ。
 でも、どうしてこんなに大量の血、が……? オカルト現象? いや、もっと現実的に、やっぱ――
――殺人?
呟いて。俺はきょろきょろと辺りを見回す。人影はない。うちで殺人……てことは、父さんか、母さんか。今日はたまたま父さんの仕事は休みで、家にいたはずだ。もしかしたら、二人とも……? そうだな、これだけの血だ、一人ではあるまい。
――…………。
 どうしてだか、妙に落ち着いていた。こういう時、パニックに陥ることができたら、どんなに楽だろうと思う。こんなこと思ってる時点で、もう駄目なのかもだが。ともかく、俺は落ち着いていた。警察が来た時に疑われないよう、無駄な箇所には一切手を触れず、リビングには一歩も踏み入らず、ただ廊下から眺めているくらいに。
 泥棒か怨恨か、それとも通り魔的犯行か。
 いずれにしても、家人が死んでいることは明白だった。父か、母か、――妹か。
――……妹……。
 妹!?
 俺は、はっとした。さっき見た少女がもし妹だったとしたら? 妹が家に帰ってきたとき、そこにまだこの惨事の犯人が潜んでいたとしたら?
 …………今まで静かだった心が、急にざわついた。
 ここには誰の死体もない。
 誰の死体もない。
 ということは。この家のどこかに、まだ死体が――この血の主が。
 父か母か妹か。
――…………!
 いても立ってもじっともしていられず、俺はリビングのドアを閉めた。しんと静まり返った家の、階段を駆け上がる。
 死体を確認するために。
 妹は死んでいないと、確認するために。