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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹

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クリスマスが近づいてきた。
 普段そう寒くはならない私の町にも初雪が降り、子供達がはしゃぎまわる季節。冬の訪れ。そして、それを代表する十二月の行事――クリスマス。それは同時に、私にとってとても大切な日でもある。
 兄の誕生日だ。
 兄は高校二年生、私は中学一年生。四歳違いの私たちは、滅多に喧嘩などしない。そっけないけれど優しい兄は、私が欲しがると譲ってくれる。私が泣くと謝ってくれる。いつだって、兄は私を守ってくれていた。私はそんな兄が大好きだ。
 そう。クリスマスは、兄のバースデーなのだ。
 プレゼントはもう買ってあり、机の中に入っている。兄の好きなブランドの、腕時計だ。結構高価だけれども、お小遣いを貯めて手に入れた。私だって、そのくらいのお金は持っている。一年間、このためだけに貯めているのだから。
 私が今歩いている通学路には、人がほとんどいない。こんな夕暮れ時に歩いていると、薄く積もった雪がオレンジ色に染まって、さえぎるもののない道路がとても綺麗に見える。だから、わざわざ少しだけ遠回りになるこの道を選んで帰っている。今日は、部活が早く終わったため、いつもより時刻が早い。
急ぎ足で、私は歩く。
 日が落ちるのは早く、いつの間にか空には星が輝いていた。オレンジ一色だった道は暗く閉ざされかけ、一枚の絵のよう。
 遠くで犬が鳴いている。もう、夜なのだ。私は、足を速める。あまり遅くなると、心配をかける。
 両親に? いや――兄に。
「…………」
 ――――え?
 どうして今私は、両親でなく、兄に心配されると思ったのだろう。
 どうして、いつも私を心配する両親ではなく、兄に……。
 どうしてだろう……。
 心の中で反芻しながら。
 私は、いつの間にかたどり着いていた自宅のドアに、手をかけた。

 クリスマスが、近づいてきていた。
 初雪も降り、寒い季節だ。学校の中での話題もクリスマス一色で、俺は少々うんざりしていた。賑やかなのは苦手だ。人が多く集まるところも。
 そんなわけで、俺はいつもはそれほど通ることのない、大通りを離れた小さな道を歩いていた。夕暮れ時で、夕陽を雪が反射して、眩しい。目が痛い。
――ちっ。
 俺は舌打ちをして、目を細めて歩く。明るいのも、好きじゃない。時々、俺は夜行性の小動物なんじゃないかと思う。例えばネズミ。広場に出されると、わざわざ端を駆けて行くネズミ。俺は、そんな感じだ。妹には、しょっちゅう注意されている。
 お兄ちゃんはただでさえ近寄りがたいのに、そんなしかめっ面してたら友達出来ないよ?
 無用の心配だ。俺は別に、四六時中『しかめっ面』をしているわけではない。学校ではそれなりに、人のよさそうな笑顔を作ったりもする。人のよさそうな『更衣雨夜(あまや)』を演じているわけだ。その、俺が演じる『更衣雨夜』を本物の俺だと信じこんで接してくる『友達』と、俺は過ごしている。まさか彼らも『更衣雨夜の友人』を演じているわけではないだろうが、……まあどうでも良い事だ。
 夕陽の中を歩いていると、俺と同じようにたった一人で歩いていく、少女の後姿が見えてきた。妹の学校の制服姿だ。どことなく見覚えがあるような気がするが……、妹ではなさそうだ。今の時間、妹は部活をしているはずだ。……ならば、それならば。一体、だれだっただろう?
 考えているうちに、少女の姿はふいっと消えてしまった。本通にでも、入ったらしい。
 まあ、良いか。
 早く帰ろう、寒いし。
 俺は、緩やかな坂を一人、下っていった。