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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹

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「あ。目、覚めたね」
 澄んだ声が、頭の横で聞こえた。息がかかるかと思うくらいに近くで。
――紅也?
「うん、僕だよ、更衣君」
――なんで俺、こんな所に寝てるんだ……?
「ハハ、忘れちゃったの? 更衣君」
 ここは……保健室、だろうか? 全体的に白っぽい、小さな部屋。俺は、その窓際に置かれた清潔なベッドに寝かされていたらしい。声のした方へ目をやると、紅也が無邪気な笑顔で、そこにいた。
 その、赤い眼を見た時。
 思い出した。
 ああ、そうか、俺……刺されたんだっけか。
 咲屋灰良に。
「そうそう。ようやく思い出したね。更衣君、あれから僕が先生呼んできて助かったんだよ。ここ、病院ね」
 病院だったのか。……紅也が、先生を呼んでくれた……のか。
「勿論。何せ君に死なれたら」
 くすりと笑んで。
 契約が台無しになっちゃうからね。
――……っ。
 思わずベッドから上体を起こすと、腹がずきんと痛んだ。
「急に動いちゃ駄目だよ、出血するよ」
――…………。
 無言で睨みつけると、紅也は何故か、笑みを浮かべた。
 まるで、勝ち誇ったような。
――?
「君の身の安全は僕が保証するよ。契約が成就するまでは、死なれると困るからね」
――死なれると、困る……?
「ああ、言ってなかったっけ。一度した契約は、それを完遂するまで他の契約に手を出せないんだ」
 だから一つずつ、きちんとこなすってことだね、と。
 紅也はふふん、と鼻で笑った。
「だ・か・ら、君はもう自殺もできないよ。いくら辛くとも、死ねないってこと。肉体的に衰えてきても、死にそうになったら僕が新しい身体を作ってあげるからね」
――……不死、みたいなもんか。
「まあ、そう考えてくれて結構だよ。とにかく、お腹にナイフを刺されたくらいじゃ君は死なない。死ぬはずがない」
 死なれたら、困るからか。
 ため息が出る。死にたくても死ねないってのは、なかなか辛いものがあるな。
「にしても君、本当に面白いね。僕が悪魔だっていうのも普通に信じてしまうし。今だって、『不死』なんていう突拍子もない話を簡単に受け止めているし」
 嘘だったらどうするのさ。
 そう言って、またくく、と笑う。赤い眼を、線のように細める。
 俺はまた一つため息をついて、紅也を見る。
――お前が悪魔だってのは確かだろうし、それなら『不死』って言うのも本当なんだろうと思っただけだ。
紅也は、やっぱり面白いね、と笑う。
「やっぱり君からは他人に対する興味っていうものが、根本的に抜け落ちてしまっているよ」
 放っておいて欲しい。仕方ないし、直して欲しいとも思わないのだから。
「でも、気になるんだよ。個人的にね。君、いつからそんな風になってしまったのさ」
 本当に興味津々といった様子で、紅也は俺のベッドの傍に腰掛ける。
――……話さなきゃ、駄目か?
「うん、いや、強制じゃないよ。ただ、教えてもらえたらお礼はする」
――いや、別に、礼はいらないけど。
「ふうん、そう?」
――それじゃあ……。
 俺は一度、軽く深呼吸をして。
――話そうか。
 話し始めた。