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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹

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「君、僕と取引しない?」
 真っ黒な髪に、似合いすぎるほど似合う真っ赤な瞳で、葉暮紅也は言った。
 男子にしては長くて、肩まで垂らしたその髪は、紅也の中性的な整った顔に、ぴったりだ。白い顔は小作りで、その中で二つ、暗い光をたたえた双眸は、ひたと俺を見据える。
――……取引?
 俺がいぶかしげに目を細めると、紅也はくくく、と咽喉の奥で笑う。
「君は、人間に対しての興味を失っている。……僕は、それを治すことができるよ」
――…………。
「でも、僕は悪魔だからね。供給ばかりでは割に合わない」
 だからこその『取引』さ。
 そう、紅也は言った。夕日に染まっていく教室で、俺を見下ろすように、見下すように。
 あざ笑いながら。
――俺は、何をすればいいと?
 聞くと。
 紅也はその顔を俺に思い切り近づけて。
 充血したのとは違う、宝石のような赤い瞳で、俺の耳元に囁いた。
「僕の魂を、見つけて欲しい」
 まるで悪魔のように。黒くてさらさらの髪が、俺の肩と顔にかかる。
「昔、ある人間に騙されてね。身体はここにあるけれど、魂を持ち去られてしまった。ここで喋ってる僕は、どこかにある魂で考えていることを、身体に喋らせているに過ぎない。魂に目があればいいんだけどね。そういうわけにもいかないしね」
――自分で探せばいいじゃないか。
 相変わらずすぐ目の前にある、女子と見間違えるような綺麗な顔に向かって、俺は言う。
「……この身体は制限つきなんだ。それに、君の『病気』を治すためには、僕の魂が、この身体になければいけない。君が魂を探し当ててくれれば、僕は君を治そう。一考に価する取引だと思うけど」
 そんなことはない。別に俺は今、この『病気』とやらで困っていやしないし、治して欲しいとも思っていない。
 俺が黙っていると、紅也はふっと微笑んだ。しかし視線は緩むどころかより鋭く、獲物を狙うようなものになる。そう、それはまるで。
 真っ赤な。
 悪魔のような――。
――紅也、お前、悪魔なのか。
 俺の呟きのような問いに、紅也はきょとんと首を傾げて、その射抜くような視線を、少し和らげた。
「さっき、そう言ったでしょ。今頃反応するなんて……面白いね、君」
 くっくと笑って、紅也は俺から離れた。
「そうだよ、僕は悪魔さ。だから、『取引』に応じてくれるなら、どんな願いでもそれに見合ったものをかなえてあげられる」
 赤い悪魔は、そう言った。夕日の光で、全身赤く染まっていて、本当に。それは。
「例えば、そうだね。……君なら『病気』以外にも――かなえて欲しい、いや、かなえたい願いが、あるんじゃないかな」
――…………。
「妹さん、とか?」
――…………。
「うん、きっと君の中での優先順位はそっちの方が上だね。何なら『病気』の方でなく、そっちの方、どうにかしてあげようか?」
 猫なで声で、紅也は言う。
 俺は黙り続ける。
 心の中の動揺を、知られたくはなかった。でも。
 悪魔は、何もかも見透かしたような表情で、俺の顔を覗き込んだ。また、あの鋭すぎる視線で。
「『取引』、応じる?」
 その、真っ赤で濁り一つない、澄み切った、まるで血のような眼を見て、俺は。
 俺は――。