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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹

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 俺の妹は、444号室に入れられる前、何号室だか、別の病棟の部屋に入院していたという。しかし、そのとき。
 一度だけ、眼を覚ました。
 運ばれてきて、眠り続けていた妹は、入院してから丁度二ヶ月目に、眼を覚ましたのだ。こん睡状態だった患者が眼を覚ましたとあって、担当医や看護師らが集まっていたらしい。
――が。
「君の妹さんの病室に集まってた人間、皆……死んじゃってたんだって」
 そう。
 紅也の言葉通り、俺の妹が目覚めてから一時間もたたないうちに。
 病室に集まっていた医者か看護師全員、傷だらけで死んでいたというのだ。紅也は何故か、それを発見した一人の看護師の話も聞いていて、
「何でもね。医者とか看護師の死体に囲まれて、君の妹さん、また眠ってたんだって」
 などと言う。
 死体に囲まれて、再び眠り続ける妹。
 考えられる可能性は三つ。
 一つは、妹が医者やら看護師を殺してしまってから、また眠りについた。
 もう一つは、妹以外の第三者が、妹以外を殺して出て行き、妹はまた眠った。
 そして、最後。妹は最初から起きてなんていなくて、集まっていた医者達は他の人間に殺された。
「まだあるけどね。つまり、妹さんが起きていたとしても眠っていたとしても――、集まっていた医者達が殺しあったとか。ああ、それに、発見したって言う看護師さんも、怪しいといえば怪しいよね」
 それにしても――……、集まっていた医者と看護師総勢七人を。
 一時間以内に全員、殺したというのか。
 そして――、その間、誰も、誰もその惨状に、気付かなかった。
 気になることはまだある。
 妹が眼を覚ましていたとして、また眠ってしまったのは仕方ないだろう。が、しかし……妹が眼を覚ましたというのがデマだったとしたら、……。
 いや、この疑問は、今考えても仕方のないことだ。
 ともかく。
 今はっきりと分かっているのは、『妹の病室に集まっていた病院の人間が、全員死んでいた』という事実のみ。そしてその『事実』により、妹は『特別室』とも言える、現在の444号室に移されたのだ。
「ここがどうして『特別室』なのかというとね。まず第一に、他の病棟から物凄く離れたところに、『立ち入り禁止』の文字までつけて、隔離されているということ。勿論、担当医でも決して一人では行かない。二人か、若しくは三人連れで、診察に行くんだって」
 紅也はどこか楽しそうに、そしてどこか皮肉げに。薄く笑いながら、そう話す。
「それと、もう一つはね。決して、内側から出られない。鍵は担当医の声紋なんだってさ。徹底してるよね」
――じゃあ、もし妹が担当医の誰かを殺すなんてことがあれば……。
「そ。もう二度と、妹さんは自力では出られない。病院側が錠を開けない限り、太陽も月も、見るコトはできなくなる」
――そうか……。
「ん? どうかしたのかな……妙に落ち込んでるねぇ」
 ククク、と含み笑いをして俺の顔を覗き込む紅也に、別に、と応える。
――あいつは、人を殺したりなんか、しないからな。
「ふうん? ……ま、どうでもいいけどね」
 紅也は、本当にどうでもよさそうに俺から離れた。
「ま、ともかくそういう訳。理解した?」
――……まあ、それなりに。……あ、そういえば。病院の人間は、俺があいつの兄だって知ってんのか。
「当たり前でしょ。だから、多分脅えてるね」
――え?
「だってさ、死体の中で眠ってた女の子の兄だよ? 普通の人間なら、怖がるよ」
――……ふうん。
 それならそれで、もっと待遇を良くしてくれても良さそうなものだ。入院というのは、どうも窮屈で面白みに欠ける――もっとも、普通に夏休みを送っていたとしても、俺に面白みのある何事かなど、起きることはなかっただろうが。
「贅沢言わない。……っていうか、君結構他の患者さんと扱い違うよ? 気付いてないだろうけど」
――そうなのか?
「うん。病院食の、デザートの量の割合とか……、あ、あと君のところには、この病院内の綺麗どころの看護師さんが交代で来てるらしいよ」
――…………。
 どうも俺は、薄っぺらい人間だと思われているようだ。
「それで――、感想は?」
 紅也はにやにやと、俺を見下ろす。窓からの光りが、眩しい。……あいつは、もうこの光りを、見ることが出来ないのだろうか。
 俺は目を細めて、紅也を。赤い悪魔を、見上げる。
 そして。
――どうもこうも……最悪だな。
 そう言った。