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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹

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「かわいい妹さんですね」
 気付いたら、紅也は隣の高校生に話しかけていた。……おいおい、馴れ馴れしいな……。
「え……、あ、有難う御座います……。ってか、僕が礼言ってどうするんですかね」
 照れたように笑う高校生。
「名前、セツカちゃん、って言うんですよね。雪の花、って漢字当てるんですか?」
「ええ、そうです。冬に生まれた花のような女の子、ってことで」
「良いですね。……あなたの名前は――」
 そう言いながら、紅也は彼のベッドの上に貼られたネームプレートをちらりと見て。
「ええっと……しんじじつ……?」
――は? 新事実?
「ああ、僕ですか? あはは、そうなんですよ。新事実、と書いてアラタコトミと読むんです」
 よく言われるんですよね、とコトミ君は頭を掻いた。
「あ、ちなみに新が苗字です。だから妹は、アラタセツカ――新雪花、ってことですね」
「へえ、……珍しい名前ですねー……」
 すう、と紅也は目を細める。
「ですよねー」
 コトミ君は屈託なく笑う。
「あ、なんか突然すいませんでした。妹さんがあんまり可愛かったもので……」
「いえいえ」
 紅也のわざとらしい弁解にもコトミ君は微笑んで、俺と紅也に礼をして。
「ではまた……」
 言って、ベッドとベッドの間を仕切る白いカーテンを、ゆっくり閉めてしまった。紅也はにこにことそれを見ていたが、カーテンが閉まりきってから気持ち悪い笑顔を浮かべた。
「ま、つかみはOKかな」
――は? つかみ……?
 紅也の呟きに対する俺の問いは、完膚なきまでに無視され、紅也はまたしても邪悪な笑みを俺に向ける。
「では、話の続きといこうか、更衣君?」
――……ああ。
 俺は持っていた赤い本――中身はまだ読んでいない――をサイドテーブルに置き。
 紅也が話すのを、待った。

「君、妹さんがどこの病院に入院してるか、聞かされてないでしょ」
 俺は肯く。
 そうだ。確かに俺は、妹が入院しているという病院を聞かされていない。
「理由は――……分かってるんだよね」
――ああ、分かっている。
 俺は、……妹の血まみれの姿を見て――。
「極度の混乱状態、パニックに陥った」
 そう、それで、その様子を見ていた親戚や警察関係者は俺の精神的な負担を考え、今となっては妹の唯一人の肉親である俺に、妹の入院先を告げてくれなかったのだ。そして今も……俺は、妹の居場所を、聞かされてはいない。
 でも――。
――ここの病院の、444号室、……なんだろ。
「うん。悪魔の情報網は確かだよ。で、君……この病院の名前も、当然知らないわけだね」
 そういえばそうだ。他人に対して興味を持てないのは仕方ないにしても、自分が入院している病院の名前くらい知っておかなければいけないだろうに。
「まあしょうがないよ。だってこの病院、入院患者にわざわざ病院名なんて告げないもの。まあそれはともかく、妹さんと君が同じ病院に入院している――……この状況、君の親戚はどうも思わないのかな?」
――思わないんじゃねえの? 今だって、一度も見舞いに来てないし。
「ふーん……まあ、そうみたいだよね、うん。じゃ、本題といこうか。ええっと、妹さんの入院している444号室が特別だってコトは言ったよね」
――ああ。あいつ以外、入ったことがないって言うんだろう。
 うん、と紅也は肯いて、椅子に座った。
「その理由なんだけどね――」
 妹さん、実は一度、目を覚ましたんだって。
 ――――――。
――なんだって?
 俺は馬鹿みたいに口をぽかんと開けて、
――目を、……覚ました?
 呟いた。