まりん
黒目がちのひとみをきらきらさせて、まりんは笑った。ふわふわの髪がわたがしみたいで、青いワンピースをきていた。
それから、まりんはぼくの休みの日になるとやってきた。そして、一日中ぼくのそばで過ごした。
不思議なことに、まりんの存在は少しもぼくの邪魔にならなかった。
本を読んでいれば、そばで首をかしげながら聞いているし、ぼくがごろごろしていれば、歌を歌った。
その歌声は、鈴を転がすと言う表現がぴったりなほど、綺麗な声だった。
しかも、ぼくが仕事でへまをやって落ち込んでいる時には励ますように、うれしいときはいっしょに喜んでいるように、ぼくの気持ちにぴったりの歌を歌ってくれた。
いつのまにか、まりんはぼくの妹のような存在になっていた。
ぼくは、好きな人――もちろん君のことだけど――のことも、ごく自然にまりんに話した。
まりんはそのたびに、
「その人も、きっとあなたのことが好きよ」
と、春のお日様のような笑顔を見せた。
冬になっても、まりんは元気な笑顔でやってきた。
ある寒い日。突然散歩に行こうという。
ちょっとおっくうだったけど、ぼくはまりんとアパートを出た。
公園から商店街を抜けたとき、ぼくはふと立ち止まった。このまままっすぐ行くか、角を曲がろうか、考えた。というのも、角を曲がると君の家があるから。
「どうしたの?」
まりんがぼくの顔をのぞき込んだ。
「いや、別に。まっすぐ行こう」
すると、まりんは何を思ったのか、いきなり走り出して角を曲がった。
「ま、まりん」
ぼくは慌ててあとを追いかけたけど、角をまがったとたん、まりんの姿はまるで消えたように、見えなくなっていた。
「まりん。君はいったい……」
ぼくがその場に立ちつくしていると、
「こんにちわ」
君が目の前に立っていた。肩に青いボタンインコをのせて。
それは、いつかケガをしたインコによく似ていた。
インコはピイッと、甲高い声で鳴くと、ぼくの方に飛んできて、肩に止まった。
「まあ、まりん」
君のその一声に、ぼくは驚いた。
「ま、まりんって言うんですか?」
「ええ、きれいな青い色でしょう。だから」
「外にでてきて、飛んでいったりしない?」