まりん
海沿いの国道をまっすぐ走る、ぼくのハンドルを握る手は、幸福をつかんだ喜びでいっぱいだ。となりにいるのは、三ヶ月前、この助手席を自分の指定席にした君。
東京から二時間乗り続けて、疲れてしまったらしく、さっきから気持ちよさそうに眠っている。せっかくの景色も見ないで。
左側は水平線がゆるやかな弧を描いて広がっている。ここに来ると、本当に地球が丸いことを実感する。
空の青と海の碧。微妙に違う二つの色。
その色は、ぼくにとって不思議な思い出を呼び覚ましてくれる。
大学に入ったばかりの時、君に一目惚れした。ときどき見かけるだけで、ぼくの胸はもう、どきどきだった。まるで初恋の時のように。
たまたまコンパで一緒になっても、気の利いた言葉なんかかけられない田舎者のぼくは、都会育ちの君には少しも相手にされないと思いこんでいた。
でも、そのまま卒業を迎えてしまった時は淋しくて、東京をはなれる気になれなかった。
ぼくは卒業したら、家業を継ぐっていう両親との約束を反古にして、東京で就職してしまった。それも、君の家に近いところにアパートを借りて。
自宅から会社に通う君とは、電車で一緒になったけど、あいさつを交わす程度で、ろくに話もできなかった。
結局、足かけ六年も思い続けていたんだ。
そうして、あれは秋も半ばの、小春日和の日だった。
ひなたぼっこでもしようと、アパートの裏の小さな公園でベンチにこしかけていたら、小鳥がけたたましく鳴いている声が聞こえた。
見ると、きれいな青いインコが猫に襲われているじゃないか。ぼくは急いで猫を追っ払うと、傷ついたインコの手当をした。
「珍しい色だな。なんていうんだろう」
ぼくはペットショップに行って、インコを見せた。ブルーボタンインコだという。
「いや、うちのじゃないよ。どこかよそで飼ってたのが逃げたんだろう」
そのまま連れて帰ってしばらく面倒を見た。一週間ほどでよくなったから、窓から離してやると、喜んで飛んでいった。
幸福を連れてきてくれるかな。なんて、おとぎ話みたいなことをちょっと考えたっけ。
数日後、ぼくはアパートの前で、まりんという女の子と出会った。
「え、どうしてぼくの名前を?」
「うふ、今はひみつ」
東京から二時間乗り続けて、疲れてしまったらしく、さっきから気持ちよさそうに眠っている。せっかくの景色も見ないで。
左側は水平線がゆるやかな弧を描いて広がっている。ここに来ると、本当に地球が丸いことを実感する。
空の青と海の碧。微妙に違う二つの色。
その色は、ぼくにとって不思議な思い出を呼び覚ましてくれる。
大学に入ったばかりの時、君に一目惚れした。ときどき見かけるだけで、ぼくの胸はもう、どきどきだった。まるで初恋の時のように。
たまたまコンパで一緒になっても、気の利いた言葉なんかかけられない田舎者のぼくは、都会育ちの君には少しも相手にされないと思いこんでいた。
でも、そのまま卒業を迎えてしまった時は淋しくて、東京をはなれる気になれなかった。
ぼくは卒業したら、家業を継ぐっていう両親との約束を反古にして、東京で就職してしまった。それも、君の家に近いところにアパートを借りて。
自宅から会社に通う君とは、電車で一緒になったけど、あいさつを交わす程度で、ろくに話もできなかった。
結局、足かけ六年も思い続けていたんだ。
そうして、あれは秋も半ばの、小春日和の日だった。
ひなたぼっこでもしようと、アパートの裏の小さな公園でベンチにこしかけていたら、小鳥がけたたましく鳴いている声が聞こえた。
見ると、きれいな青いインコが猫に襲われているじゃないか。ぼくは急いで猫を追っ払うと、傷ついたインコの手当をした。
「珍しい色だな。なんていうんだろう」
ぼくはペットショップに行って、インコを見せた。ブルーボタンインコだという。
「いや、うちのじゃないよ。どこかよそで飼ってたのが逃げたんだろう」
そのまま連れて帰ってしばらく面倒を見た。一週間ほどでよくなったから、窓から離してやると、喜んで飛んでいった。
幸福を連れてきてくれるかな。なんて、おとぎ話みたいなことをちょっと考えたっけ。
数日後、ぼくはアパートの前で、まりんという女の子と出会った。
「え、どうしてぼくの名前を?」
「うふ、今はひみつ」