まりん
「外へ行ってもちゃんと帰ってくるわ。気まぐれ屋さんなの。たった今も、帰ってきたばかり」
ぼくが肩に止まったまりんに指を近づけると、まりんはくちばしをくっつけてきた。
「まりんはあなたのことが気に入ったみたいね。本当はすごく人見知りなの」
それから君は、まりんがどれほどかわいいか、楽しそうに話した。君の声は涼やかで、耳に心地よかった。
君の語るまりんのエピソードは、ぼくを驚かせた。
いつか一週間ほどいなくなったことがあることや、毎週決まった時間に外へ出ていって夕方帰ることなど、ちょうどそれは、ぼくがまりんと過ごした時間だったから。
けれど、なによりも、君がぼくのことをまりんに話していたっていうことを知って、どれほどうれしかったことか。
もう、ぼくは羽根が生えて飛んでいってしまいそうなくらい舞い上がって、そのあと何を話したか覚えていないんだ。
それから君とぼくは時々お茶を飲んだりするようになった。不思議な女の子まりんは、もう二度とぼくの前に現われることはなかった。そして、三ヶ月前、ぼくたちは婚約した。
ぼくたちの婚約の日。まりんは姿を消した。
いつものように、気まぐれに、町を飛び回って帰ってくると思っていたけれど……。いまだにまりんは戻らない。
もしかしたら、まりんはまた、だれかに幸福を運んでいるのかもしれない。
やっぱり幸福の青い鳥? ぼくにはそんな気がしてならないんだ。
「ふわあーあ」
「よく眠れた?」
「ごめんなさい。あなたが運転してるのに」
君はすまなそうに、肩をすぼめた。
「それより、外をごらんよ」
「わあ、きれいな空と海。ここがあなたの故郷なのね」
「うん。この自然はちょっと自慢」
「気持ちいい」
君はまるで空を捕まえようとでもするかのように、両手を広げた。
そうしてじっと海を見つめて、しんみりと、なつかしそうにつぶやいた。
「まりんの羽根の色みたい」
「まりん。今頃どうしてるだろうね」
ぼくのつぶやきに、君は静かに笑って、
「きっと、だれかに幸せを運んでいると思うわ。わたしとあなたにしてくれたように」
ぼくと同じ事を考えていた。