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黒竜と彼のご主人さま

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ルークは背の高い兄たちの間から部屋の様子を伺おうとしたが、暗かったせいであまり良く分からなかった。
薄暗い部屋の中では父親のアイザックが、彼らを待ち構えていたようだ。
他の兄たちに続いてルークも部屋に足を踏み入れる。

まず目に飛び込んできたのは、部屋の中央に置かれたは大きな天体儀。
部屋を取り囲むように、3メートルはあるかと思われる天井まで届く本棚にはぎっしりと書物で埋め尽くされいた。
広くとられた空間のあちこちに、龍の置きものが置かれていた。
きっと年代物で、価値があるものには違いないが、ルークにしてみればただのがらくたにしか見えなかった。

ルークは一番近くにあった兜に近づく。
綺麗に磨かれたそれは、指紋一つなくルークの顔を写し出していた。
背後では父親と兄たちが何やら話しているが、ルークには興味もなかったし、聞いたところで難しい話を理解できるとは思わなかった。
だから誰もルークの行動を気に留める人もいなかった。
きょろきょろと珍しいものはないかと、今いた部屋に飽き足らず、奥へと進んでいく。
背の低いルークにとって、身の丈よりも遥かに高い本棚は深いジャングルに迷い込んだみたいで、楽しかった。
自分の影を見えない敵とでも思っているのか、一人で遊んでいた。

そうして気がつけば入口から大分奥へ来てしまったようで、父親たちの会話がすっかり聞こえなくなってしまっていた。
引き返そうかどうしようかと迷ったが、好奇心が勝り、この奥にきっと何か面白いものがあるに違いないと更に奥に向かった。

瞬間、ルークは顔面から誰かにぶつかった。
赤くなった鼻をさすりながら、怒られると身構えたが一向に怒られる気配がない。
きっと自分を探しにきた、父親か兄かの誰かだろうと思っていた。
おかしいなと恐る恐る顔を上げると、見知らぬ男が立っていた。
闇に溶け込むような黒髪の男は、その紫紺の瞳を細めて無表情に、ルークを見下ろしていた。
当のルークは、誰もいなかったはずなのに、家族以外にもこの部屋に入れる人がいるんだ、という色んな疑問で頭がいっぱいだった。

「――、見えているのか?」
冷たい雰囲気とは裏腹に、男の声は凛と涼やかだった。
ルークは目をぱちくりさせてどういうことかと考えた。
きょろきょろと辺りを見ても、少々悪趣味な部分はあるものの、なんの変哲もない部屋。
見えているのは、この部屋に多少場違いな彼のことなのだろう。
「うん、見えるよ」
兄たちよりも背の高い彼に、笑顔で返した。
「そう、か」
ルークの返事に満足した男は、そう言うと少し表情を和らげる。
その和らいだ表情に思わず見とれるくらい、男は端正な顔立ちをしていた。
「お兄ちゃん、誰?」
危害を加えるような人ではないと判断したルークが無邪気に尋ねた。
「――そのうち、わかる」
どういうことなのだろうかと口を開こうとした瞬間、入口の方が騒がしい。
誰かがルークがいないことに気付いたのだろう。
ルークの名を呼んでいるのが聞こえて、振り向いた。
「あ、行かなきゃ。お兄ちゃん、また」
そうして再び男がいた方に向き直ると、いつの間にか彼はいなくなっていた。
いなくなったというよりも、消えたと言った方がいいか。
音もなく彼はその場から消えたのだった。
ルークが呆然と何が起こったのか理解しきれずにいると、探しにきた父親に腕を掴まれた。
相当ご立腹のようで物凄い剣幕で何かをまくし立ている。
狐につままれたようなそんな感覚だ。
父親にずるずるとその場を引きずられながら、彼がいた場所を今一度確認するように振り返る。
やはり、誰もいない。
少しだけ残念だと思いながら、顔を正面に戻した時、奥で何かが光ったような気がした。
もう一度振り返ると、男がそこに立っていた。
父親にそのことを伝えようと袖を引いたが、彼はゆっくりと首を振り、人差し指を唇にあてた。

――また、おいで。

彼の口がそう言った。

作品名:黒竜と彼のご主人さま 作家名:青海