鋼鉄少女隊 完結
第二十一章 瞽女(ごぜ)
雪乃の卒業コンサートは12月中旬の平日、YHアリーナ行われた。平日コンサートであるため、スタンド席は埋まらないだろうという当初の予想を裏切り、チケットはスタンド席も含めて即日完売となり、通路立ち見席を追加販売したが、それも数日で売り切れた。 舞台下のセンター席とそれを取り巻くアリーナ席、さらに上方のスタンド席に12000人の観客が入った。
コンサート中盤、グループ内ユニットIMC鋼鉄少女隊の来年発売予定だったアルバム「落日の女王」の中から終わりの2曲を演奏した。
落日の女王は架空の大陸おける王国滅亡の話だ。ほとんど武器らしい武器を持たぬ、平和な大陸の王国に別の大陸より侵略者が押し寄せる。
強力な鋼鉄の武器を持つ侵略者に王国は降伏する。この王国は周囲の国々の連合体の宗教的な宗主でもあった。しかし、ろくな武器と兵力を持たぬこの王国には秘密があった。その代々の女王自身が恐ろしい兵器だったのだ。女王は城と城下の街から全ての人を逃がして、城門を開け放ち一人侵略軍を待つ。
その前に女王は代々の言い伝えのとうり、ある薬を飲む。その副作用で肌は藍色となり、盲いる。女王はその肌と顔を隠す白いベールをまとい、玉座に座る。
侵略軍が入城したとき、女王は彼等に息を吐きかける。それは猛毒で兵士らは次々と倒れ、真っ黒な死体となる。死体は即座にもろい灰になって崩れてゆく。
女王の吐く猛毒の息は侵略軍を全滅させただけでなく、王国全土の動植物を滅ぼしていてゆき、不毛の地、死の大地と化した。住民達は遠く離れた場所に移住して行った。一人残った女王は視力を失った不死の体となってしまう。周りに生きものの居ない世界で永遠に死ねない体となって孤独の中に生き続ける運命を背負う。
千年の時を経て、遠く移住した王国の民の子孫の中の一人の少女が、伝説の女王に会いに行く。女王の侍女の家系だった。女王の毒を遮断できるマスクと衣服を代々伝承していた。
その少女が毒よけのマスクと衣服を身にまとい、女王の願いを聞きに行く。
女王の願いは千年に一度開くと言われる地下世界の、生と死の泉に行き、死の水を汲んできてほしいということだった。死の水により、女王は不死から逃れることを願った。
少女が苦難の末、地下深くにある生と死の泉に着いたとき、泉を守る石像が言葉を発する。
二つの泉のうちのどちらか一方の水をのみ汲むことが出来る。どちらの泉が生か死かは言えない。早く汲まねば石の扉が閉じてまた千年開かないと。
一方の泉は美しい金銀の装飾に覆われ、一方の泉は灰色の石の造りだった。少女は仕方なく当てずっぽうで一方の泉の水を汲んで地上に帰ってくる。
汲んだのが死の水でなく、生の水ならば、また女王は千年の孤独に耐えねばならないのだ。
地上に戻り、少女が落胆した顔で汲んできたのが、生の水か死の水かわからないと告げる。しかし、女王は少女が金銀に彩られた美しいほうの泉の水を汲んできたと聞き、それは自分の望みどうりの水に違いないと断言する。
少女から手渡された杯から女王は水を飲む。次第に藍色の肌は元の白さを取り戻してゆく。目も見えるようになる。女王はかっての若さと美しさを取り戻し、舞い歌う。
舞台ではスピメロの激しいギターリフ、疾走するドラムの中、女王役の彩が絶叫する。
「限りある 命は燃えて
枯れゆく花は 喜びに満ち
永遠(とわ)の生 暗き石室
千年の生 暗き土くれ
解き放たれて 我は舞う
懐かしき空 思い出に
・
・ 」
踊り狂う女王の体は突然、無数の白く小さな蝶の群れに変わり、空一面に飛び去って行く。今まで、草木一本も生えることの無かった大地が、みるみるうちに緑に覆われ始める。
女王の化身となった白い蝶の群れは、沈んで行く夕日を追いかけるように茜空に向かって飛んで行く。
コンサート後半、ピュセルの歌とダンスに戻って、数曲とアンコール曲を終えた後、雪乃が最後の別れの言葉を述べることになった。
「皆さん! 今日はありがとうございます。平日にも関わらず、遠い所からやって来てくれた方々もいらっしゃると思います。ほんとうに、こんなにまでしてもらって、光栄です!」
雪乃が頭を下げるのに対して一万二千の観客が声を上げる。センター席、アリーナ席、スタンド席は雪乃のカラーの紫色の灯りで埋め尽くされている。
「短い活動期間でしたが、何の悔いもありません。一年半前、どうしてピュセルみたいなこんなに歌やダンスのレベルの高いグループが世間に注目されないのか、とても悔しくてなりませんでした。だから、私が最初に入った時の、皆さんへのご挨拶で、もっと力貸してくださいってお願いしました。そして皆さんのご協力があって、今ピュセルは過去の栄光とは違う、また新しい頂に向かって登っていこうとしています。これって、ピュセルだけが登っているんじゃなくて、皆さんも一緒に登っていってくれているというのを実感しています。見るほうの人の目がどんどん肥えてゆくので、演じる者達もこの人達を満足させ、唸らせるようなパーフォーマンスがしたいと思い必死で練習しました。確かに、私達一緒に登ってきましたよね!」
突き上げる雪乃の腕に呼応して観客達が歓声が響く。
「ピュセルはもうすぐ結成15周年を迎えようとしています。女子のアイドルグループがこんなに続いてきたのも、メンバーの入れ替え制と、定期的なグループの演目の改変があったからだと思います。同じメンバーで同じことをやっていても続くことなどありません。その時代時代のピュセルがあったからです。だから、そういう新陳代謝の一つとして、私は今日ピュセルを離れて行きます。もうお聞きになっているとは思いますが、来年早々、ピュセル第11期生の公開オーディションが開催されます。そうやって新しい血を入れ、どんどん形を変えて生き続けるのがラ・ピュセルというグループです」
「やめないで!」
観客数人の悲痛な叫びが響く。雪乃の目から思わず涙がこぼれ落ちる。