鋼鉄少女隊 完結
全員に配り終わると、雪乃は最後の紙の小袋を開いた。そこには雪乃の分の従軍記章のペンダントが入っていた。雪乃はそれを首にかけ、胸に垂らした。雪乃の予想を上回る速さで大きくなってゆく両の胸の谷間の地肌を、銀のペンダントが冷たくするっと滑り落ちて行った。
雪乃はそれ以後、祖父にギターやベースを習った。ドラムはエレクトーンを習うのをやめて、替わりにドラムの教室に入れて貰った。しかし、エレクトーンやめてみて、エレクトーンが実は一人で数人のバンドに匹敵することをやっていたのには、感心させられた。雪乃はエレクトーンで右手でメロディ、左手でコード、左足でべース。ドラムに当たるリズム部分は自動的にリズムパターンを出していたのだった。
鋼鉄少年隊の解散以来、雪乃は積極的にいままで縁の無かったスカートを履くようにした。髪も伸ばした。そのうち、近所の同じ年頃の女の子達とも仲良くなった。
中学は家から近い、キリスト教系の女子大の付属中学に入り、もう男子と関わりあうことも無くなった。部活は中学に軽音部が無かったので、友達にそそのかされて、新体操部に入ってしまった。
中学の制服を着て、夕方、新体操部の女子達と部活帰りで帰宅する道すがら、かっての鋼鉄少年隊の少年達に出会うことがある。彼等は解散時の雪乃の願いを守って、雪乃を無視してくれた。みんな雪乃より遙かに背が高くなっていた。雪乃自身、小学校でわっと背が伸びた反動か中学に入っても背が伸びなかった。もう炎天下駆け回ることもなく、体育館だけでやるスポーツだったので、雪乃は色がどんどん白くなってゆき、髪も背中まで伸びた。もともと整った顔立ちだったため、雪乃は通る人が振り返るほどの美少女になっていった。
女ばかりの学校で、女の世界にどっぷりはまっていると、小学校の頃の鋼鉄少年隊の記憶が、実は自分が体験したことではなく、なにか映画かドラマでみたことではないかと思えてくることがある。そういう自分の過去の記憶への、臨場感の無さは、鋼鉄少年隊隊長だった村井雪乃は遙かな先祖の英雄で、自分は何代も後の無能な同名の子孫であるかのような、侘びしい錯覚さえ感じさせた。
しかし、雪乃の中には再び野望が目覚めていた。
「私の帝国は滅びた。でも、私はもう一度自分の帝国を作るんだ。今度は女だけの帝国」
雪乃はガールスバンドを結成して、インディーズからメジャーデビューという夢を持ち始めたのだ。