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鋼鉄少女隊  完結

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 隠れて不意打ちで熊スプレーをあいつらの顔にかけて、麻由を連れ出すというのは無理なようだった。正面突破しかないと腹を据える。ウェイターに教えられたドアを軽く二回ノックして、返事も待たず開く。
 ウェイターの言ったように、テーブルを囲み、四人の男が酒を飲んでおり、麻由は少し離れた椅子の上でぼんやりと虚ろな表情で天井を見上げていた。
 金沢がとがめる。
「おい! おまえ誰だ? 部屋が違うぞ」
 構わず雪乃は部屋の中に入る。
「一時間早かったんですけど」
 男達は顔を見合わせて怪訝そうだ。金沢が戸惑いながら、テーブルの上のピュセルのコンサートグッズとして販売されている雪乃の生写真と、目の前のキャバクラ嬢を交互に見比べる。
「おまえ……、まさか、村井雪乃なのか?」
「はい。せいぜい磨いて来いっておっしゃるから、このとうり」
 金沢は傍らの体格のいい若い男を詰問する。
「おい、入り口の福田には村井雪乃が来たら、俺に声をかけてから通せって言ってないのか?」
「あっ、私、三階のキャバクラRのリホですって言いましたから。村井雪乃なんて本名、名乗って、未成年のアイドルがこんなお酒飲ませる店に入ったら評判悪くなるでしょ」
 金沢は忌々しそうな顔で雪乃をにらみ付ける。完全に先手は取った。敵が混乱しているうちに次々と攻撃を仕掛けなければならない。こちらの攻撃が尽きたときが敗れるときと、雪乃は思い定めた。
「黒田さんは表の芸能界では有名なので、存じ上げてます。金沢さんは最近、AZUMIの裏の実力者と知りました。今日は、なんでお呼びいただいたかわかりませんけど、丁度私もお二人にビジネス上の話を持ちかけたいと思ってましたので、いい機会なんでやって参りました」
 金沢は黒田ほうを向く。
「こいつ、こういう女なのか? ただの小娘じゃあないのか?」
 黒田が戸惑った顔で首を横に振る。雪乃はたたみかけて行く。撃つ弾が無くなったら負けと覚悟を決めて、口から出任せを発し続ける。
「私、AZUMIに移籍したいんです。そこの麻由も私が言えばついて来るとは思うんですけど、麻由ってどうなってるんです? エクスタシーとかいう薬飲ませたんですか? Mなんとかいうやつ。でも、あれって覚醒剤が入ってるんでしょ。こんなにぼんやりなるもんですか?」
 金沢が答える。
「MDMAだ。興奮した後、とんじまうやつだ。覚醒剤だけじゃなくて、LSDもブレンドしたやつを飲ませたよ。」
 雪乃が納得する。
「じゃあ今は、麻由にAZUMI移籍は確認できませんね。でも私が言えば大丈夫ですから。私も麻由も辛気くさいピュセルにはアキアキしてるんです。ピュセルの前から居るメンバー達がじゃまで上に行けませんしね。AZUMIって実力主義でしょ。でも、AZUMIのメンバーになりたいって言ってるわけじゃありません。麻由はメンバーでいいですけど、私はAZUMIの運営に参加したいんです」
 金沢と黒田は、雪乃の予想外の出方にすっかり混乱しているようだった。計略というものは、敵が正常な判断が出来ない状態で仕掛けるのがベストのタイミングだ。
「私がピュセル内のガールズバンドの鋼鉄少女隊の曲作ってるのご存知ですか?」
 黒田が肯く。
「私、ピュセルの曲も作りたいんですけど、プロデューサの玉置さんが居る限り、作らせて貰えません。AZUMIの場合、黒田さんは歌詞を作るだけで、作曲は外注ですよね。私にAZUMIの作曲をさせて欲しいんです。私も印税生活者になりたいんですよ。ピュセルのCDって、そんな売れてません。なんせCDの売れない時代ですから。でも、AZUMIのCDだけはなんと、毎回シングル出す度に、100万枚も売れてますよね。でも不思議ですよね。AZUMIのSSアリーナでやったコンサートに来てたのって1万3000人くらい。おそらく、AZUMIのファンは全国に3万人くらいは居るでしょう。そのうちCD買うのは2万人くらい。ファン達が握手券目当てに一人5枚を買う。売り上げは10万枚ですよね。残りの90万枚って誰が買ってるんでしょ?」
 金沢と黒田は苦い顔をする。雪乃は続ける。
「テレビのワイドショーでAZUMIのファンは一人で100枚のCD買うみたいに特集やってましたけど、そんなお金持ってるファンてそうそう居ないでしょ。何人かは居たとしても、ファン全体の一人平均購買枚数は5枚で、10万枚。結局、残りの90万枚は自社買いでしょうか?」
 自社買いとは、芸能事務所自身が所属のアーティストのCDを買うことを言う。それによって、CDの売り上げチャートを偽装して不当に吊り上げ、所属アーティストが人気があると世間に思わせることが出来る。
「90万枚の自社買いの資金は何処から来てるんでしょ? テレビ、新聞、雑誌などのマスコミには一切出てきませんけど、ネット上ではマネーロンダリングが行われているってうわさがあります。いろんな裏の業者さんとこの、なんか気持ちの良くなるお薬売ったお金とか、いろんな裏のお仕事で手に入れたお金では、大きな不動産も変えないし、投資もできませんよね。お金の出所を説明できないから。でも、そんな闇のお金を預かって、自分とこのCD買って、そのお金を売り上げとして計上して税金払えば、目減りしちゃうけど、出所のはっきりしたお金になる。資金洗浄ですよね。で、闇のお金を出してくれるいくつかの団体がAZUMIの運営に関わっていれば、可能ですよね」
 金沢と黒田が厳しい目つきになる。
「あっ! あのー、私マネーロンダリングとかそんなのどうでもいいんです。100万枚も売れるCDの作曲印税が欲しいだけなんです。私にも甘い汁を吸わして欲しいんですよね」
 雪乃は両手を肩の高さに挙げて、羽ばたくような仕草をする。
「きれいな蝶は、あまーい蜜が大好きなんですよ」

 金沢と黒田が顔を見合わす。金沢が呆れたように言う。
「おまえ、とんでもない小娘だな。かわいい顔しやがって、開いた口がふさがらんわ。とんでもないビッチだな」
 黒田が渋い顔をする。
「どうして、君にそんなことをしてやらねばならんのだ?」
 雪乃はにっこり微笑む。
「お土産なしに、そんな虫のいいことお願いしようとは思ってません。もう、私のことは調べがついているんでしょ。麻由をエサにして私という魚を釣り上げたんだから。サイトグループがピュセル側についたのは、私との繋がりっていうのはご存知ですか?」
 黒田が肯く。雪乃が続ける。
「ねぇ、釣った魚を食べてしまえば、それっきりだと思いますよ。もちろんん、ピュセルには打撃でしょうけど。でも、敵の兵器を潰してしまって、兵力をそぐのも一つの手ですけど、その兵器を無傷で手に入れて、敵に向かってぶっ放すなんていいんじゃないですか。敵の兵器で敵を攻撃する。上策だと思いますよ。確約は出来ないけど、サイトグループは私の移籍により、AZUMI側につく可能性はあります。それと、私がAZUMI側につくメリットは、AZUMIの冠番組活性化です。AZUMIのやってるバラエティ番組って視聴率最低ですよね。AZUMIの番組ってほんとマジでゲロマズ。それに引き替え、ピュセルタイム2って高視聴率です。あの番組中のコントは、実は私が作ってるんです」
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫