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鋼鉄少女隊  完結

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第十九章 熊狩り



 一週間後の休日、雪乃は思いがけないものを見てしまう。明日、美咲が静岡に帰るというので、雪乃は送別会をやるために都心に居た。美咲と待ち合わせていたのだが、目の前に浅井麻由が現れたのだ。5メートル程離れた歩道で手を振っていた。その傍らに黒のスポーツカーが止まる。ホンダNSXという二人乗りの高価な車だ。
 車から長身の20代後半の男が出てきて、助手席側のドアを開けてやると、麻由嬉しそうな顔で乗り込む。麻由を乗せた車が走り去る。麻由は雪乃には気付いていなかったようだ。
 雪乃はあっけにとられて見ていたが、いつの間にか、美咲が傍らに来ていて、車が走り去った方向を見ながら口を開く。
「今乗ったの浅井麻由ちゃんでしょ。やばいよ! 今の男、金沢って言ってとんでもない奴なんだ。麻由ちゃんが危ないよ! あいつ元暴走族で、今は東京愚連隊とかいう暴力団まがいのとこのリーダで、麻薬、恐喝なんでもやっちゃう奴で、表向き会社の社長だけど、そこもヤクザのフロント企業なんだ。俺々サギなんかもやってたらしいよ」
 しかし、もう車は見えない。
「恵理ちゃんとこ行こう! きっと金沢の行った先知ってる」

 二人はタクシーをひろい、美咲のAZUMI時代の友達、広田恵理のマンションに行く。 恵理は元キャバクラに居たが、19才でAZUMIの研究生になり、一年後に退団している。握手会に来たファンを殴ってしまったからだ。その男は手ひらに自分の精液を塗りつけて恵理の手を握ったので、思わずその顔にパンチを入れてしまい、即解雇となった。20才になった今は元のように、キャバクラで働いている。
 夕方からキャバクラに出勤する恵理は今起きたばかりというふうに、すっぴん、くしゃくしゃの髪ではれぼったい目をしてドアを開いてくれた。美咲の後に居る雪乃を見て、嬌声を上げる。
「きゃー! 雪乃ちゃんや! 雪乃ちゃん!」
 美咲が雪乃のほうを振り向く。
「言うの忘れてたけど、恵理ちゃんピュセルのファンで、特に雪乃ファンなの。それと、恵理ちゃん、関西人だから」

 部屋に上がらせてもらい、美咲がざっと成り行きを説明する。理恵はさっきのはしゃぎようとは別人のような、厳しい目になる。
「それは、まずいわー。麻由ちゃんころっと欺されたんやな。表向きあいつ会社社長やし、イケメンやしな。金沢はな、きっとR本木のTビルの10階の会員制カラオケバーのSってとこに麻由ちゃんを連れてったんや。私以前、あのビルの3階のキャバクラに居たから、あのビルのことよう知ってるね。麻由ちゃんに薬飲まして、とびまくりでいろんな姿の写真撮られて、スキャンダルでピュセル潰すつもりなんや。早よ麻由ちゃんつれもどさなあかんで!」
 雪乃は携帯を取りだし、警察にかけようとするが、恵理が止める。
「待ちぃ! 警察やったらやめときや。R本木管轄のA署はあいつら東京愚連隊の連中とズブズブなんや。いろんな接待受けまくって、あいつらに丸め込まれとるんや。逆にあいつらに、通報されて逃がしたるようなもんや。警察に言うんやったら、直接、警視庁に言わなあかん。そやけど、警察通すと麻由ちゃんのスキャンダル、マスコミに筒抜けになるで。それより、雪乃ちゃんの会社通したほうがうまく行くと思うわ。芸能事務所て、ケツモチっていって、バックにヤクザ居るもんや。グリーンプロモーションにおらんでも、提携してる仲間の芸能事務所のどれかの後に居てるはずや。そのヤクザ通して、金沢の上のヤクザに話させたほうが確実で安全やと思うわ。まぁ、ヤクザへの手数料いっぱい払うことになるやろけどな」
 
 雪乃はグリーンプロモーションの社長に電話しようとする。しかし、今日は休日のため、自宅に居るはずなのだが、社長の自宅の番号を知らなかった。まず、藤崎彩にかけて、電話番号を聞いてと思っていた矢先、突然携帯が鳴る。
 画面には、麻由の名前が出る。雪乃は慌てて出る。
「もしもし、麻由ちゃん。何処にいるの?」
 しばらく、沈黙があったのち、男の声が聞こえた。
「村井雪乃か?」
「そうです。あなた誰ですか? 麻由ちゃんは何処にいるんですか?」
「麻由か? 麻由は元気だよ。いや元気過ぎるくらいだよ。ほら声聞かしてやろう」
 携帯を渡したらしく、突然麻由の声になる。
「雪乃ぉ! 元気ぃ! こっちおいでよ。楽しいよ! &%#$…………」
 麻由の後半の言葉は嬌声に満ちて、何を言ってるのかわからなかった。笑い声が響いた。男の声に替わる。
「な、元気だろ。おまえも来なよ。麻由も喜ぶぜ。言っとくが、警察やおまえの会社に連絡しようとか、やめといたほうがいいぜ。そんなことすると、麻由がどんなことになっても知らなねぇよ」
「やめて! やめてください! 麻由ちゃんには絶対、指一本触れないで! 私行きますから。でも何処に行けばいいんですか?」
 男は恵理が言ったのと同じカラオケバーSを指定した。雪乃は時間稼ぎをするために、現在の居場所を偽った。
「わかりました。私、今横浜の家に居ますから、三時間後に行きます」
「三時間か、まぁせいぜい磨いてきな。もう一度言っとくが、誰にも言わず、おまえ一人で来るんだぜ! 麻由がどうなっても知らないぜ。それと三時間過ぎてもおまえが来なかったときもだぞ! 麻由はちょっとだけかわいそうなことになるからな」

 電話が切れた後、恵理が首を横に振る。
「あかん! 行ったらあかんで。あんたも捕まってしまう。あいつの目的はピュセルのスキャンダルを捏造することやと思うわ。私、金沢のことさぐるためにAZUMIに入ってたんや。AZUMIの表の運営はプロデューサの黒田やけどな、裏仕切っとるのが金沢なんや。AZUMIの汚い部分にはあいつが全部かかわっとる。メンバーに枕営業させるのも、辞める子をAV会社に回すのもあいつや。あいつの仲間にAV会社やってるのがおるんや」
 雪乃は目を丸くする。なんという鬼畜な奴。そんなのに、麻由が捕まっていると思うとぞっとする。
「忠告してくれてありがとうございます。でも、私行きます。麻由とは約束したんです。バディだって。スキューバで海に潜る時の二人ペアみたいに、どっちかが遭難しても、必ず助けるって。だから、そのTビルの場所とSという店の内部の様子教えてください」
 恵理はしばらく考え込んでいた後、こくりと肯く。
「よっしゃわかった。私も協力するわ。私、あいつらに親友の女の子殺されたんや。その子芸能界に居てたんやけど、あいつらに薬で飛ばされて、恥ずかしい写真いっぱい撮られて、それネタにあいつらに業界向けの高給娼婦みたいに使われてたんや。その子、マンションから飛び降りた。そやけど、自殺なんか、突き落とされたんかわからへん。私、あいつらの悪事の証拠さぐるためにAZUMIに入ってたんや」
 恵理がビル全体と10階フロアの詳細の見取り図を書いてくれた。

 雪乃の計画では、雪乃本人が一人で10階のSに乗り込んでいき、麻由を助け出す。
 薬物でとばされている麻由をつれて、10階の非常口から非常階段に出る。
 そこには、美咲が待っていて、二人で麻由を1階の路上に連れ出す。
 ビルの非常階段近くの路上には、恵理が車で待っていて、三人の乗せて逃げる。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫