鋼鉄少女隊 完結
「それから、あと二人と関係持ったの……。一人はスポンサー企業の人。もう一人は何処かの省庁の官僚の人。それから深夜テレビでちょこっとだけど、出してもらったし、会社から特別手当もらったよ。でも、私……、もう嫌なの! なんか……、自分で自分が気持ち悪い!」
雪乃はどう慰めていいのかわからなかった。小さな子をあやすように、優しく穏やかに背中を叩き続けてやることしかできなかった。
「私、AZUMIやめさせてくださいって、AZUMIの運営事務所に言ったんだ。そしたたら……、お金返せって言われた。研究生は給料無しで、交通費のみ実費支給だったの。だから、家賃とか生活費とか会社から借りてた分が400万円になってた。最初借金までしてって、思ったんだけど、正規メンバーになって、給料やグッズの売り上げの歩合が入ってくれば、すぐに返せてしまうと言われた。でも、私……、もう嫌で辞めたかったの。そうしたら私の実家にお金取りに行くって言うの。それだけは辞めて下さいって頼んだんだ。私、18だから。サラ金でも20才以下にはお金貸さないっていううし……。そしたら、アダルト・ビデオの会社を紹介してやるから出ろって言われた。アダルト・ビデオに4本くらい出たら返せるって言われた。でも、もうそんなの嫌なんだ……。私……、もう死のうって思ったんだ……」
雪乃は美咲を抱きしめる。雪乃の目からも涙がこぼれる。
「死んじゃだめだよ! 死のうなんて思っちゃだめ……。あんたが死んだら、私さびしいよ……。お金は私がなんとかするから」
雪乃は立ち上がり、階下に行こうとする。
「私のお給料はお祖母ちゃんが全部管理してくれてるの。はっきり金額わからないけど、400万以上は充分貯まってると思う。私がそのお金出すからね。ちょっとお祖母ちゃんに話してくるから、待ってて。だいじょうぶだからね」
雪乃は次の日、銀行から400万円をおろしてもらい、祖父母に頼んで、美咲とともにAZUMIの運営事務所に出向いてもらった。ちゃんと、金を払って請求書、領収書を取ってきた。
それから、別途30万円の金を美咲に渡す。
「電気代やガス代の未払い分とか当面に生活費といるでしょ。これで払える?」
「ありがとう。何からなにまでありがとう。430万円借りておきます。少しずつだけど、払っていきます」
「いいよ。ある時払いで。私、オシャレでもないし、あんまりお金持っててもそんなに使う当てないしね。それより、あんたに黙って勝手にやってしまったけど、静岡の私のお祖母ちゃんに連絡してね、美咲の家に行ってもらったんだ。美咲のお父さんとお母さんすごく心配してて、早く帰って来て欲しいって言ってたらしいよ。だから、美咲は静岡に帰ったほうがいいよ。それと、今日でも、美咲の家に自分から連絡しておいてね。お父さんとお母さん待ってるよ。それと、私がお金出したってのは黙ってあるからね」
美咲はまた声を上げて泣き出す。
「いいよ。泣かないで。美咲が泣くと……、ほら私も泣いてしまうんだ。先の楽しいこと考えようよ。静岡に帰って当分大人しくしていて。私がもっと会社の中で地位が上がったら、美咲を呼んであげれると思ってる。うちの会社って、ときどき舞台で演劇とかやってるから……」
美咲は首を横に振る。
「ありがとう。でも、もういい。もう芸能界はこりごりだ。私みたいなチキンがやっていけるようなとこじゃないし……」
「そう。でも気が変わったらまた言って。でも、私、下っ端だから、まだまだ力ないけどね。それと、静岡に戻る時には言ってね。送別会やるわ」
美咲が別れ際に奇妙なことを言った。
「私がAZUMIを辞めさせてって、事務所に行ったときのことなんだけど、衝立の向こうで大きな声で電話してるが聞こえたの。その中に何度も『浅井麻由』って名前が出てたよ。浅井麻由って、ピュセルのメンバーの子だよね。なんか、企んでるような、嫌な感じがしたよ。浅井麻由って子、気をつけたほうがいいよ。AZUMIの事務所はTDNと繋がってて、週刊誌なんか言いなりだから、ピュセルの評判落とすのにウソの記事でも書かせるからね」
「ありがとう。麻由には気をつけるように言っておくわ」
「ねぇ、私もうちょっと、AZUMIの事務所が浅井麻由ちゃんのこと何で言ってたのか調べておくね」
「だめよ! あんたはもうAZUMIとは切れたんだから、そんな危ないことしちゃだめ。お父さんとお母さんが泣くよ」
「大丈夫よ。私はもうAZUMIとは関わらないけど、同期の研究生で私より先に辞めた子がいるの。元々キャバクラに勤めてた子だから、また元の仕事に戻ったんだけど、私その子と仲いいの。その子、AZUMIの中のメンバーにも友達が何人かいるし、AZUMIの運営の裏側にも詳しいの。AZUMIの運営って危ない業界の人が関わってるらしいの。その子、AZUMIに恨み持ってて、AZUMIに仕返しするネタ集めてるって言ってた。だから、その子に聞いてみるだけよ」
「ほんと? あんた自身は何もしないでね。聞くだけにしてね。まぁ、インターネット上でなら、私や藤崎彩ちゃんなんか、男とデートしたとか、お泊まりしたのだとか、もう、捏造いっぱいされてるからね。もし、ネット上の掲示板での捏造工作くらいの話だったら、もうそれ以上関わらないでね」