小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

鋼鉄少女隊  完結

INDEX|62ページ/91ページ|

次のページ前のページ
 

 現ピュセル側は演歌対決で勝てるとは思えなかった。特にOGの安村、石原は手強い。歌唱力のある村井雪乃と浅井麻由をぶつけても、勝算はない。それで、先鋒戦、中堅戦は捨てることにする。ただし、ポップス歌手であるOGの滝川、進藤には確実に勝つために、雪乃と浅井麻由をぶつけて、二勝二敗に持ち込む。そして、大将戦では新、旧リーダ対決に持ち込み、藤崎彩と川口真由美の勝敗結果にかけるという布陣にする。
 もちろん、そういう駆け引きの妙で視聴者を楽しませようとする、雪乃のシナリオなのだが。

 審査員はグリーンプロモーションで人気のある女性演歌歌手が一人。一般人から五十代の男性が一人と七十代の女性が一人の計三人がなった。対決する二人の歌を聴いてからそれぞれが、赤旗と白旗のどちらかを上げるのだ。ピュセルが赤チーム、OGが白チームとなる。
 このシリーズも練習打ち合わせ、試合の前編、後編の三週にわたって放映された。番組中でこればかりやっていたわけではなく、撮りだめしてあるコントとか、ピュセルプロジェクトの新曲の紹介などもまじえて放送された。
 
 対戦はシナリオどうり二勝二敗の引き分けのまま、大将戦になり、藤崎彩が負けた。
 崩れ落ちる彩に対して、川口真由美が言い放つ。
「悔しかったら、もっと修行して表現力つけてきぃ! 私の持ち歌上げるから、それをインディーズのCDにして、ピュセルの藤崎彩を名乗らずに、新人の演歌歌手として、手売りで売ってきてみい!」
 不安げな彩に川口がさらに指示する。
「初期のピュセルみたいに、五日で五万枚売れとか言わへん。昔はうちらも一人で一万枚売ったけどな。私らの時はテレビの番組で見ていてくれた人が、向こうから買いに来てくれた。そやけど、こんなCDの売れん時代や。今はインディーズのCDが手売りで3000枚も売れたらもう大変なもんや。この番組が放送されてない地方に行って、CD、手売りで500枚売っといで。それまで、この番組は私らOGが仕切る。500枚売ったら、もう一度うちが対決したげるわ。一対一で戦うて、おまえが勝ったらこの番組返したる」

 藤崎彩は藤あかね、戸田明日香は羽田みどり、村井雪乃は村沢すみれ、と名乗ることになった。三人で新人演歌歌手として、CD手売りの旅に出るという番組企画として続行された。
 あかね、みどり、すみれ、というのはそれぞれのピュセルでのイメージカラーである。
 
 三人の手売りのロケは青森で行われた。10月初旬の青森は晩秋というより、初冬だった。この季節、土、日はピュセル秋のコンサートツアー中だったが、10月最初の土、日は開けてあった。
 もちろん、行き当たりばったりで行ったわけではない。地元の大手スーパーマーケットのイベント会場を使わせて貰い、ミニコンサートを開くことにしている
 スーパー店頭には、二週間前から、藤あかね、羽田みどり、村沢すみれ歌謡ショーというポスターを貼って貰っている。しかし、地元のテレビでは、ピュセルタイム2は放映されていないのだ。
 ピュセルタイム2は東京のキー局と呼ばれる、テレビ五大ネットワークの一つの制作局である東京放送が作っている。これを地方の局に流す場合、キー局側がネットワーク費(電波使用料)というものを支払う。しかし地方局はキー局で作成された全ての番組を流しているわけではない。地方局もその局のオリジナルの番組を流しており、ピュセルタイム2はここでは外されていた。

 雪乃はこれである実験をしようと企んでいたのだ。斉藤浩太郎とも何度も話し合った事だ。
 将来的には、原則無料の音楽番組専門のインターネットテレビ局を作り、ピュセルプロジェクトのそれぞれのグループの番組を配信したいと思っている。広告代理店、マスメディア、芸能事務所の連合体から不当にもはじき出されている、国内の実力のあるアーティスト達をも出演させたいのだ。

 今回はその実験的なもので、テレビの番組撮影とは別に、既存のネット動画サイトに、ミニコンサートの様子を生中継させる。雪乃言うところの、威力偵察だった。
 雪乃は三週間前から、インターネット上のツイーターおよび掲示板に、三人の無料ミニコンサートが開かれる場所、期日、開始時間をリークし続けた。
 そのうちピュセルのファン達によって、青森の無料ミニコンサートに行くための掲示板がネット上に作成された。そこで、交通経路とか、当日のコンサートの形態の予想が語られ始めた。
 もちろん、当日動画サイトでも見ることが出来るという情報も流された。
さらには未確認情報として、「ブラック ピュセル」ことピュセルOG五人が参加するというのもささやかれていた。
 東京からなら新幹線で三時間ちょっと。高速道路の休日割引で車に乗り合わせてもいける。高速バスもある。土曜の17時開始なので、終了後一泊して日曜に帰っても、月曜からの仕事に間に合う。
 遠くから行くものは、コンサート後は何処のビジネスホテルに泊まるのが安いとか。 
 そいうな情報がネットに多数上がった。地方都市にとっては、2000人がやってきて、地元で食事や日用品の買い物、宿泊をしてくれることの経済効果は馬鹿にならないものだった。

 10月初旬の土曜日の17時よりミニコンサートが開始された。もちろん、サイトホールディングス、青森放送の協賛だった。青森放送は実は、今回よりピュセルタイム2を放送することになる。その前夜祭も兼ねているのだ。
 無料立ち見の会場は2000人ほどの人が押し寄せていた。地元の人も居たが、その大半は全国から駆けつけたピュセルのファン達だった。
 異様な風景だった。それぞれカラフルなピュセルの現メンバーTシャツを着ていた。さらには、OG達の名前の入ったTシャツを着ている人達もいた。
 ピュセルOGもサプライズで来るという情報が流れていたので、元ピュセルファンも来ていたのだ。現メンバーのファン達は、こういう卒業したメンバーTシャツで来るファンのことを、遺族と呼ぶ。
 舞台では着物姿で村沢すみれ、羽田みどり、藤あかね、の順で演歌を歌う。
 その都度、Tシャツを三枚重ね着してるのを順に脱いでいって、紫、緑、赤と変えてくれるファンも多数いた。会場はサイリューム禁止にしていたので、せめてTシャツだけでも色の変化を出したかったようだ。
 会場のCD売り場では彩が二曲、明日香、雪乃が一曲づつの計四曲の入った500枚のCDをあっという間に完売してしまった。雪乃は1000枚のCDを作ってもらっていたので、さらに500枚を追加で販売する。
 この三人のファン達にとってはレアなCDになるので、それもまもなく完売。追加販売では地元の人達も列に並び、買ってくれていた。
 突如、舞台に現ピュセルメンバーの残り6人が私服で登場する。
 浅井麻由が叫ぶ。
「やったー! 試練のCD500枚完売だよ。追加分も500枚完売。1000枚売れたよ!」
 司会者が観客に実は、テレビのピュセルタイム2の番組の撮影であるのを明かす。
 演歌歌手に扮していた彩が観客に頭を下げる。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫