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鋼鉄少女隊  完結

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「あの……、私達ステージがありますので、腕に焼け跡とか出来ると困るんですが……」
「アホウ! 煙草で根性焼きなんかせんわ。潜水対決や!」
 50メートルプールで息を止めて潜水して、どれだけの距離進めるのかというやつだ。現メンバーとOGとでそれぞれ三人代表を出して、合計の距離を競うこととなった。
 川口が決めつける。
「おまえらが負けたら、この番組、うちらOGに明け渡しぃ!」

 OGらに頼み込んで、ヒール(悪玉)対ベビーフェース(善玉)という、プロレスまがいの、古くさくてドロくさい対決構図を作ったのだ。
 
 テレビの画面では、さらに控え室に戻ってきたOGらの様子らが続いてゆく。
 川口が宣言する。
「うちらでもう一度、ピュセルを結成することにする。名前はブラック・ピュセルや!」
 ピュセル卒業後、大学に進んだ進藤麻里が口を挟む。
「あのー、川口さん。ピュセルはフランス語です。ブラックじゃなくて、フランス語の黒、ノワールを付けたほうが……。ピュセル・ノワールほうがいいと思いますが」
「なんや、それ? 御菓子の名前みたいやな。別にフランス人もアメリカ人もこの番組、見やへんて。それにピュセルは元はフランス語やろうと、うちらがデビューして、国民的グループと呼ばれた時から、ピュセルはカタカナの日本語の単語になったんや」
 滝川がぱちぱちと手を叩く。
「すばらしい! 川口さん。そのとおりです。進藤! 何ごちゃごちゃ言ってるの! 番組名のピュセルタイムも、フランス語と英語だろ!」
 川口が機嫌良く、再度宣言する。
「ブラックという英語も日本人ならほとんど黒やてわかる。もうカタカナの日本語や。それで、ブラック・ピュセルにする! お? なんや? そこに黒い布が落ちてるわ。進藤、石原! 広げてみい」
 進藤麻里と石原美樹が壁際に落ちている大きな黒い布を広げる。黒地に白の文字でもう既に、
『ブラック ピュセル』
とプリントしてあるというベタな展開だった。
 それから、次回予告が流れる。
 新旧ピュセル対決! ピュセル対ブラック・ピュセル。ピュセルが負けたら、番組を去ることになるという、テロップとナレーションで、現ピュセルとOG達がプールで潜水の練習する画が流された。

 この対決は練習風景、試合の前編、後編で三回にわたって放送された。
 対抗戦では、OG側は滝川、進藤、石原が黒の競泳水着。川口と中野が黒のワンピース姿でプールサイドに現れた。中野は例のブラック・ピュセルとプリントした黒旗を持っていた。
 現役ピュセル側は藤崎彩、浜崎杏奈、村井雪乃が白の水着で現れ、残りのメンバーは白のワンピースという出で立ちだった。
 川口真由美が念を押す。
「ええな。うちらが勝ったら、ピュセルタイム2は私らOGの番組にする! もし、うちらが負けたら、ブラック・ピュセルは即、解散する!」

 結局、合計潜水距離、一メートルの差でかろうじて現ピュセルが勝った。もちろん、それぞれがシナリオどうりの潜水距離を潜ってこういう結果にしたのだ。このドロくさい対立構図の番組視聴率はきわめて良かった。
 プールの水面にはOG達が捨てて行った、ブラック・ピュセルの黒旗がゆらゆらと浮かんでいた。

 さらにこの新旧対抗戦シリーズは続いた。
 ピュセルタイム2の後半で、また黒ワンピース軍団がスタジオに乱入する。前回と同じADが滝川に突き飛ばされる。
 安村理沙は捨てたはずのブラック・ピュセル黒旗を持っている。
 浅井麻由が側の雪乃に呟く。もちろん、シナリオどうりであり、放送で流れる科白だ。
「まるでレディース(女性暴走族)よね。川口さん総長だ」
 川口が浅井の方を見ずに怒鳴る。
「浅井!」
 麻由がひっ、と言って縮こまる。
 川口が藤崎彩を見据える。
「藤崎! 前回はOGとして、おまえらの根性を確認した。しかし、まだおまえらには足らんもんがある。歌がうまいとは、どういうことか言うてみぃ!」
 彩が口ごもりながら答える。
「歌がうまいというのは、歌唱力、音程、正確なリズムがあることだと思います」
「藤崎! 一つ足らんのや! おまえの歌にも、今のピュセルのメンバーの歌にも足らんものがある。表現力や。今度はおまえらの歌の表現力を試したる!」
 今度はOG五人、現ピュセルから五人が代表となり歌の対決をすることとなった。

それぞれ、五人を柔道や剣道の試合のように、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と名付ける団体戦だ。毎試合、対決する二人で勝ち負けを決めて、勝ち数の多いほうを勝利チームとする。
 OG五人は歌唱力のある人達だった。内三人は演歌歌手になっている。グリーンプロモーションは元々演歌歌手を多く抱え、演歌の興業に強い事務所だったからだ。残り二人はポップスのソロ歌手になっている。川口は演歌対決を指示した。

 実はこの企画に先立ち、前回の新旧ピュセル対決が好評だったのを知って、社長の田口が雪乃に相談してきたのだ。OG達のソロ歌手としての興業にもっと客が集まるように宣伝出来ないだろうかと。
 雪乃が提案した。
「今のピュセルとOGの人達で演歌対決をやりましょう。日曜のお昼といえば、いろんな世代の人がテレビ見てますから、OGの人達の持ち歌の宣伝にもなりますし」
「しかし、ピュセルの番組で演歌やるものなんだけどねぇ。ピュセルタイム2そのものの視聴率も落としたくないからね」
「大丈夫です。演歌対決だろうが、百人一首対決だろうが、卓球対決だろうが演目そのものは何でもいいと思います。マンガでも将棋や囲碁を題材にしたのがありますけど、ルール全然知らない小学生でも楽しんで読んでます。競技そのものじゃなくて、対決者の闘志とか駆け引きがおもしろいから読まれていると思います。それに、今度はピュセル側を負けさせようと思います」
「えっ! 負けさせるの?」
「はい。今度はピュセルが負けて、OGにピュセルタイム2が乗っ取られます。それでピュセルが努力してOGに再挑戦して、自分たちの番組を取り戻すっていうのにしたいんです」

 新、旧ピュセルの演歌対決が行われた。
OG側は、
大将 川口真由美 演歌
副将 滝川景子  ポップス
中堅 安村理沙  演歌 
次鋒 進藤麻里  ポップス
先鋒 石原美樹  演歌

現ピュセル側
大将 藤崎彩
副将 村井雪乃
中堅 戸田明日香
次鋒 浅井麻由
先鋒 浜崎杏奈

という布陣となった。
 総合得点で競う団体戦ではなく、毎試合の勝ち数の多いほうが勝利する武道の団体戦では、セオリーとして、第一試合の先鋒と第三試合の中堅に強い者を持ってくる。第五試合の大将は風格と実力を伴う者が位置する。次鋒、副将は引き分け狙いの実力の者を持ってくる。
 OG側の団体戦の試合順の決め方と、ピュセル側の試合順を決めるところの駆け引きが、それぞれ別室で協議される模様が撮影された。
 演歌歌手三人を持つOG側は当然のように、セオリーどうり、大将、中堅、先鋒に実力者を持ってくる。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫