小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

鋼鉄少女隊  完結

INDEX|60ページ/91ページ|

次のページ前のページ
 

第十七章 ピュセルタイム



 アンジェリアがサイトグループに加入すると同時に、関東テレビは当の番組中で即座に謝罪した。テレビ局側も報酬目当ての告発者に欺されたと言いわけした。
 しかし、ガセネタであろうとも、告発者本人のプライバシーを守る為と、その所在を公表しなかった。実際には、テレビ局に雇われた無名のタレントが台本どうりに演技をしていただけだからだ。サイトグループのほうもヤラセとわかっていて、あえて追求はしなかった。

 ピュセルを取り巻く情勢も一変した。タイアップの新曲『アンジェリア』はスポットCMであるが、テレビでアンジェリア創業祭の告知の中で流された。スポットCMとは番組スポンサーでは無く、ランダムに放映されるものである。それがサイトグループとテレビ局側との落としどころであった。
 
 CMはサイトビバレッジからも入った。新製品の女性用飲料の宣伝だった。いわば、女性用栄養ドリンク風の清涼飲料水だ。内容はクエン酸とL−カルチニンが含まれていた。クエン酸は疲労回復効果、L−カルチニンは脂質を燃焼させるので、体を温めると同時にダイエット効果もあった。ドリンク剤サイズの小瓶だったが、ドイツのモーゼルワインを思わせる洒落たデザインだった。
 
 ついにピュセルの冠番組が復活した。冠番組とは出演タレント、グループの名前がタイトルに入っている番組のことである。『ピュセルタイム2』は以前のように東京放送の日曜昼の時間帯に放映されることとなった。
 雪乃は寝る暇も無くなった。ピュセルタイム2の番組企画の原案を作成することになったからだ。さらには、サイトビバレッジの女性用飲料のCMの原案も雪乃が作ることになったのだ。
 斉藤浩太郎と釣りに行って、潮目が悪く魚がエサに食いついて来なくなるときがあった。海の釣果は潮の満ち引き影響される。そんなとき雪乃は浩太郎に、自分の夢を語った。 
 ピュセルが、冠番組を持った時にやる番組の企画案やら、CMの依頼がいつか来たとき、ピュセルの曲を絡ませてのCM企画を語った。浩太郎はおもしろそうにその話を聞いていてくれた。
 浩太郎のことは、本人が言うように、リストラで早期退職して、退職金で悠々自適の趣味生活を送っっているというのを雪乃は信じていた。
 で、自分がサイトグループの総帥であるのを明かした浩太郎は番組、CMの原案を雪乃に依頼したのだ。
 サイトグループは株式を公開ぜず、ほぼ全ての株を斉藤浩太郎が所有する。だから、株主にとやかく言われることも無く、例え売れなくても、道楽のような製品を作り続けたりする。その内、損得を無視して開発した製品の品質とかユニークさが認められ、売れることになったりした。
 ピュセルのスポンサーになることは浩太郎の道楽であった。しかし、村井雪乃のクリエータ、プロデューサとしての才能を買っているという理由もあった。

 女性用飲料のCMは藤崎彩を主役にして作られた。
 深夜の埠頭。真っ黒なフルカウルの1000CCのバイクに跨る、全身黒革ツナギの女。長い髪が風に揺れる。憂鬱そうな顔。突然、ピーという笛の音が響く。
見回すが誰も周りにはいない。再度ピーという音が足下から響く。下を見ると、ピュセルメンバー達の扮する10センチほどの小人達が居る。その中の戸田明日香が指笛を吹く。他のピュセルのメンバー達がドリンク剤のビンをみんなで抱えて持ってくる。
 ドリンク剤を飲むと、彩の体も小さくなり、共に歌い踊り出す。その部分はピュセルの曲のプロモーションビデオが使われた。
 歌い踊ってリフレッシュした後、元の大きさに戻った彩はバイクのエンジンをかけ、ジェット機のように後に炎を吐きながら、猛ダッシュで走り去ってゆく。小人達は炎を浴びて、服は焼け、髪の毛もちりぢりに焦げている。
 浅井麻由が怒りの余り地団駄を踏む。
「もう! なにするのよぉ!」
 明日香が白けたような顔で呼びかける。
「撤収」
 小人達は闇の中に去って行く。
 夜明けの高速道路のサービスエリア。バイクに跨った彩が晴れやかな顔で、手に持ったドリンク剤のビンを突き出す。

 ピュセルが小人の集団になって、自分達の曲の歌と踊りをやるというのは次々とシリーズとして作られた。もちろん、画面にはピュセルの名と曲名も表示されていた。
 バイク篇に続き、女子マラソン篇、残業OL篇、女子大生失恋篇などはCMとして好評だった。

 ピュセルタイム2は現在のピュセルメンバーと四期の卒業生である原恵里香、吉崎佑子を加えてスタートした。四期の二人はピュセル黄金期を知る視聴者に対して知名度が高い。二人をこのバラエティ番組の司会とすることで、過去のこの番組のファンをもう一度取り込む意図があった。
 過去のピュセルタイムのように、メンバー達によるコントも取り入れた。ほとんど、前の放送時のシリーズものとなっていたコントの続編として、雪乃が原案を考え、構成作家に依頼した。
 実は、ピュセルの一期、二期、三期の卒業メンバーにも出演してもらったのだが、その登場の仕方は劇的というか、悪しきバラエティ番組丸出しの域にあった。

 放送の後半で、 突如、卒業メンバー達が乱入してきたのだ。もちろん、雪乃の書いたシナリオどうりに演技してくれているのだが、特に一期のメンバーは狂犬のような迫力があった。
 全員、黒いワンピースを身にまとった集団が、スタジオに入ってくる。止めるADが突き飛ばされる。
 入って来たのは
川口真由美 ピュセル一期 初代リーダ
滝川景子  ピュセル一期 二代目リーダ
進藤麻里  ピュセル一期 初代センターポジション
安村理沙  ピュセル二期 初代サブリーダ 
石原美樹  ピュセル三期 二代目センターポジション
ピュセル黄金期を飾った、アラサー世代のそうそうたるメンバー達である。

 関西出身の川口真由美が口を開く。
「藤崎! ピュセルタイムが復活したゆうのに、なんで、うちら呼ばへんのや。おまえ何様のつもりや!」
 滝川景子が現ピュセルメンバーの座っているひな壇に近づき、冷たい声を放つ。
「おまえら、のけ!」
 現メンバー達は慌てて立ち上がり、先輩らに席をゆずる。
 滝川景子は、司会の原恵里香、吉崎佑子を呼びつける。
「原! 吉崎! おまえら、現メンバーのほうに付いたってわけか?」
「いえ、私達……。会社に言われて、出演してるだけですから……」

 川口真由美が現ピュセルリーダの藤崎彩をにらみつける。
「ピュセルはな、一期、二期、三期が地べたはいずるようにして、大きしたんや。いわば、私達は根っこや。根っこがあるから、幹も枝も元気でいられるし、葉っぱも出れば花も咲くんや!」
 彩が先輩達にぺこぺこ頭を下げる。
「あの……、けっして先輩達をないがしろにしてるわけではありません。番組の構成上、こうなってるので……」
 滝川が怒鳴る。
「戸田! おまえサブリーダだろ。藤崎の横に並ばんか!」
 戸田明日香が慌てて出てきて、彩の横に付く。
 川口が二人をにらむ。
「なんにしろ、おまえら根性がたりんわ。おまえらの根性たたき直したる。うちらと勝負しぃ! 根性対決や!」
 彩が言いにくそうに答える。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫