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鋼鉄少女隊  完結

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 二人はしばらく言葉なく佇んでいた。しばらくして、麻由がまたその沈黙を破る。それも、とんでもない発言をした。
「ねぇ、雪乃。あんた、男の人のオチ○チ○てどんなんだか知ってる?」
 さすがに雪乃は度胆を抜かれて、麻由の顔を見つめる。
「何! 何を聞くのよ……」
 麻由は雪乃の反応などお構いなしに、しゃべり続ける。
「小さい子供の頃、お父さんとお風呂一緒に入ったことあるんだけど、そんな記憶全然残ってないの。あんたは、どう?」
「そうだね……。そう言えば、私も記憶に残ってないなぁ……」
「私ねぇ、中学時代の女の子達から、恋愛話さんざん聞かされたあと、なんかイライラしちゃって。事務所でさぁ、誰も居なかったから、私のスケッチブックに、男の人のオチ○チ○の絵、自分の中の想像で描いちゃった。どんなだか、わかんないから、パターンA、B、Cって三枚描いたのよ。このなかのどれが、本物に一番近いんだろうって」
 麻由はカニ釣り用のエサに買ってきてある、珍味のさきスルメを袋から摘んで、もごもごと食べ出す。
「それでね……、それで……、そのスケッチブック忘れて帰ってしまったのよ。机の上に置いたまま。途中で気付いて、そっこう会社に戻ったよ。すると、そのスケッチブック、あの一期の鬼の滝川さんが手に持って、中開いて見てたのよ。私、凍りついたよ。スケッチブックには私の名前書いてあったからね。滝川さんが、
『浅井!』
って呼ぶのよ。私、観念して部屋に入ったよ。てっきり、スケッチブックで顔おもいきりぶたれるって思ったよ。
『浅井、おまえ、こんな趣味があったの』
って言うのよ。私、覚悟したよ。そしたらね、
『おまえ、見かけによらず芸術家なんだね。絵がシュールすぎて、よくわかんないけど、まぁしっかり、芸術しなさい』
って何事もなく、スケッチブック返してくれたのよ。
 私、ぽかんってなったよ。しばらくして納得いったのよ。だって、滝川さんてもう結婚してるじゃない。男の人のオチ○チ○がどうなってるかって、知ってる人じゃない。その人が見て、シュールな絵に見えるって、私の想像の中のオチ○チ○って現実のものとは全く別物なんだって」
 二人は堤防の外側のコンクリートの平らな場所に居た。近くの焚き火の後に、燃えさしの木が何本かあり、先端が炭になっていた。麻由はその一本を手に取ると、堤防の外壁に炭で、麻由の想像中最も、本物近いだろうと思っていたという絵を描いた。
「これ、どう思う。何に見える。私の想像の中のオチ○チ○なんだけど」
 雪乃はその絵をじっと眺めて、思い浮かんだものを口にする。
「地球を侵略に来たエイリアンの乗っている宇宙船かなぁ」
 麻由はその答えに、愉快そうに笑い出す。
「あー! なんか雪乃に全部しゃべってしまって、すーっとしたわ。私、まだまだピュセルに居たいから、がんばって、彼氏いない歴更新して行きます」
 それから、麻由はおもいきり芝居がかった口調で後を続けた。
「私……、このきよい体のまま、生きていくわ」
 麻由はドヤ顔で雪乃に問いかける。
「どう? この演技力。私、次の『落日の女王』では主役の女王様にしてよ!」
「だめよ! 女王は彩ちゃんだから。でも、あなた彩ちゃんの次に歌うまいし、あなたも主役よ。女王は不死の病にかかってるのよ。不治の病じゃないよ。永遠に死ねない病なんだ。あんたは、千年も続く女王の苦しみを救うため、地底の死の泉まで降りて、死の水を汲んでくる勇敢な少女の役よ」
 麻由はすっかり機嫌よくなっている。
「ほんと! 嬉しい。ありがとうー!」
 突然、麻由の携帯が鳴り出す。着信ではなく、アラーム音のようだ。
「あ、時間だ。歯医者の予約の一時間前にセットしたのよ。ごめん、歯医者行かなきゃ。もう帰るわ。ありがとう。今日はおもしろかったよ」
 
 麻由が一人先に帰ってから、雪乃はさらに五匹ほどカニを釣り上げ。それから、三輪自転車で港のほうに行ってみた。会社から一人で釣りに行かないようにとは言われているが、釣りをしている人達の釣果を見たかった。救命胴衣は持ってるし、釣り人達も居るのだから、会社の意向には反してはいないと思った。
 港の先のほうに有料の海釣り私設があり、その岸壁で男女二人が釣りをしていた。近寄ると中年の男女で、男のほうが釣り竿を持ち、女のほうが釣れた魚をすくい上げるためにか、網を持っていた。しかし、さっきから全く釣れている気配は無かった。
 男が上げた竿先の糸にはイ貝を付けていた。岸壁にびっしり着いてる黒い貝だが、黒鯛を釣るときのエサになる。女のほうと目があったので、雪乃は挨拶する。
「こんにちわ。黒鯛ですか? 釣れてます?」
 五十くらいの女性だった。全く釣れていないらしく、網持たされてすっかり飽きてしまったという風情だ。
「駄目、さっぱりよ! やっぱ、素人には難しいのね。今日が初めてだから……」
 男のほうも五十代くらいだが、女のその言葉に嫌な顔をする。しかし、男の持っている竿はいいものだし、特にリールは落とし込み用の高価なタイコリールを付けていた。女は飽きていたところに雪乃が来たのでいい話し相手と、聞きもしないことを次々と話し出した。
「いやね、私達のお友達が釣りがうまかったのよ。その人が一年前に死んじゃってね。今日がその命日なのよ。午前中、法事に行ってきたんだけどね。その人この辺りでよく釣ってたわけよ。釣ってきては料理して私達によく食べさせてくれたのよ。今夜、私達二人であの人忍んで、個人的に一周忌してあげようってなったんだけど、あの人の釣り竿で黒鯛釣って、供えて上げようって思ったのよ。まぁ、個人的に写真飾るだけだから、仏壇じゃないんで生臭ものもOKかなって思ったわけよ」
 男のほうが、余計なことまでべらべらとしゃべってやがるというふうに、うっとおしそうな顔になる。でも、女のほうはお構いなしだ。
「でもね。やっぱ、無理みたいね。魚屋で買ってたほうがよさそう」
 そんな事情があるのなら、この人達に是非とも黒鯛を釣らせてやりたい、と雪乃は思う。
「あのー、この辺り釣り荒れてますから、ヘチ釣り、落とし込みじゃあ釣れないと思います。前打ちなら、釣れるとこ知ってるから、案内しましょうか? 私、この辺に住んでて、お祖父ちゃんとよく釣りに来てるんです」

 雪乃の言葉に女は嬉しそうな顔をして、男に呼びかける。
「ねぇ、ちょっと! 兄さん! このお嬢さん、この近くの人なんだって。黒鯛がよく釣れるとこ知ってるって。ちょっと、聞いてくれない。私、釣りの難しいこと言われてもわからないから」
 雪乃は二人を夫婦だと思っていたのだが、兄妹らしかった。男が近づいてくる。半信半疑という態だ。こんな女の子が釣りのことわかっているのかと、疑っている様だ。
「あのー。釣れるとこ知ってるんですけど、そのヘチ釣りの短い竿じゃあ無理なんです。前打ち用に、他にもう少し長い竿はないんですか?」
 2.5メートルくらいの短竿を使っていたのだ。男は釣り竿のバッグを開ける。
「正直言うと、釣り1、2回しかしたことがないんですよ。これ友達の使ってた竿入ってるんだけど、どれがいいかみてくれる?」
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫