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鋼鉄少女隊  完結

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第十四章 IMC9



 年が明け、IMC鋼鉄少女隊の四曲入りのミニアルバムをインディーズレーベルで出した。雪乃は年末からのんびりとはしていられなかった。まだIMC鋼鉄少女隊の五人版でしか活動出来ていないからだ。浅井麻由がしきりに泣き言のように催促する。
「ねぇ、私達の出番まだー? この取り残された感、ものすごいよ。心の中になんかねぇ、風がぴゅーって、吹き抜けて行く感じ」
「わかってるって。でも九人バージョンの曲作らないとね。ほんと時間ないよ。あんたも歌詞とか作ってよ!」
「あ、無理、無理。雪乃先生、お肩お揉みしますから……」

 IMCというユニットを、まさに母船であるピュセル本体に組み込むには、九人編成のIMCとして、その曲を完成させなければ活動することが出来ない。
 IMC鋼鉄少女隊は今ある五人編成のものをIMC5、九人編成のものをIMC9と呼ぶことにした。ピュセル春のコンサートには、IMC9を出演させたい。そのためには、曲を完成させ、シナリオを完成させねばならなかった。と言っても、全曲をピュセルコンサートでやるわけには行かなかった。ストーリー展開上八曲を考えていたが、全曲通しでやれば30〜40分くらいになると思われた。おそらく、その内の1、2曲しか披露できないだろう。しかし、そのために、その2曲だけ先に作るのはためらわれた。まずは全体を作ってしまわないと、整合性がおかしくなると思った。

 IMC9の最初の演目はピュセルのメンバーと打ち合わせして、漫画版の『鋼鉄少女隊』にした。高校の漫画研究会の漫画原作コンテストに応募した時の原稿ファイルを開き、場面を八つに分けシナリオ化した。それぞれの場面で、何処までは歌で何処からが演技になるかを切り分けた。
 次にそれぞれの曲を作成することになった。まず、歌詞を作った。その歌詞に合わせ、パソコンの作曲ソフトで、メロディを作った。 人によってはコードから先に作る場合もあるが、雪乃はだいたいメロディを先行させる。接続したMIDIキーボードで思いついたメロディを演奏しながら入力してゆく。
 単純なリズムを付け、イントロ、間奏部を作る。とくに間奏部では、今回は科白が入りストーリーが展開するのだ。
 それから基本的なコード進行を付ける。さらに基本のリズムを魅力的なものしていく。そしてコード進行をさらに魅力的なものにしていく。
 それから出来たリズム、コードを各楽器に割り振っていく。最後に曲の装飾、微調整を行う。
 
 これらのことを、三ヶ月かけて仕上げた。もちろん、ピュセルの総合プロデューサであり、ピュセルの楽曲の作詞、作曲者である、玉置にも、社内の音楽関係の人達にも教え請いながら、進めていった。そしてIMC鋼鉄少女隊のプロデューサは雪乃である、との暗黙の了解のようなものが徐々に出来上がって行った。
「困ったなぁ……。私、そんなんじゃ無いんですけど」

 雪乃が否定するものの、周りの雪乃を扱う態度が、新入り高校生アイドルを扱うものとは除々にだが違ってきていた。各種の打ち合わせにも、藤崎彩、戸田明日香と共に出席することが多くなった。
 とはいえ、一年に満たないため薄給のままであったが。しかし、曲の作成に使う機器などは会社の費用で購入して支給された。高性能大容量のパソコン、高価なMIDIコントローラ、オーディオコントローラなどが使えるようになった。

 ピュセル春のコンサートツアーは三月の下旬より開始された。その中には、IMC9鋼鉄少女隊のアルバム『鋼鉄少女隊』の中の曲のうち二曲が発表された。メンバーの生バンドの前で、残りのメンバーが歌い、演技をするというこの試みに、最初はスタッフもメンバーも観客も戸惑っていたのが偽りのない姿だった。
 しかし、除々に受け入れられて行き、コンサートツアー後半には高評価を得ていた。

 そして、春のツアー終了後、IMC鋼鉄少女隊のコンサートが東名阪のキャパ1000人クラスのライブハウス三カ所で行われた。もちろん、単独コンサートでは無い。IMC5の四曲とIMC9の八曲では、時間的に余ってしまう。そのため、インディーズのガールズバンド2グループをオープニングアクトに呼んだ。その後、ピュセルのダンス、曲ともにかっこいい系のやつを2曲やる。それから、IMC5、IMC9とやることにした。観客のサイリュームの使用は悩ましいところだった。主な観客はピュセルのファン達であると思われた。しかし、オープニングアクトのバンドのファン達も来るし、新しいファンも来てくれることを思い、サイリューム禁止にした。ピュセルの曲を2曲歌って踊るのも、新規の観客にピュセルの本来の活動も知って貰いたいという意図があった。

 鋼鉄少女隊の出番が来て、最初にIMC5が登場する。今回はアイメークは普通にしていた。しかし、スカートのパニエの厚みは、雪乃以外のメンバーの堅固な意志のもと現状のままだった。
 最初に一曲『ハヤテ』を演奏して、MCに入る。このMCもピュセルメンバー九人でじっくり練ってきたものだ。実はある強烈なキャラ設定をしていたのだ。最初に藤崎彩が声を上げる。
「ありがとーう! みんな、ありがとーう! ボーカルの藤崎彩です! ではIMC5鋼鉄少女隊、メンバを紹介します!」
 キーボードの戸田明日香、ベースの浜崎杏奈、ギターの吉村由衣という順に紹介してゆく。実はピュセルでは、メンバー紹介などは一番新しい者から行うという習慣なのだが、今回は違えていた。一番新入りの雪乃を最後にしたのが、鋼鉄少女隊のMCにおける一つの仕掛けだった。
「最後、ドラム! 村井雪乃! 鋼鉄少女隊はIMC5、IMC9の全部の曲を雪乃が作ってます」
 観客席から、オーッ! という声が上がる。
「そして、鋼鉄少女隊の隊長は村井雪乃です! ラ・ピュセルのほうでは、私がリーダ、戸田明日香がサブリーダですが、このユニットでは二人とも平です!」
 観客席の、従来からのピュセルのファン達は、エーッ! という反応だった。
「老兵は死なずって言います。老兵は死なず、ただ口出しだけはします! 私達二人もこの鋼鉄少女隊ではピュセルの卒業生のOG同様の待遇となっています。威張れます。すごく心地いいです」
 客席のピュセルのファン達がどっと笑う。
「では、鋼鉄少女隊隊長、村井雪乃よりみなさんにご挨拶があります」
 鋼鉄少女隊ではみんなギャルソンキャップ型のドイツ軍の略帽をかぶっている。演奏中激しく体を動かすので、落ちないようにヘアピンでしっかり固定している。しかし、雪乃だけは演奏中は略帽をかぶっていなかった。彩より観客への挨拶の言葉を促されると、ドラムセットの横に置いていたバッグの中から、小道具を取り出す。なんと黒のアイパッチで左目をふさぐ。それから、正式なドイツ軍の将校の制帽をかぶる。前にツバがついていて、上部は中に入ったピアノ線で丸くピンと張っている。
 雪乃はスタンドにセットしてあったマイクを外し、マイクのコードを捌きながら、前へ出てくる。足を肩幅に開き、左手は後に回し、右手でマイクを持ったまま観客を見回す。
「友軍諸君! 本日は遠路、応援に来てくれたこと、深く感謝する!」
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫