小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

鋼鉄少女隊  完結

INDEX|49ページ/91ページ|

次のページ前のページ
 

 黒服の女達と楽器が消え、白い服の女達に替わる。女達の髪が風になびく。一様に優しげな顔。その女たちも、ふっ! と消えて、銀杏の木だけが映っている。

「いいじゃない。いいねぇ」
「すごい! ピュセルのシングルのPVよりもすごくかっこいいよ」
「最後に空がぱーって光るCGのとこって、高かったんだろうか?」
 PVの動画は早速、インターネットのアーティスト・スペースの鋼鉄少女隊のサイトに載せられた。

 11月の国民の祭日。アニメソングカーニバルの日だった。もし、土、日ならピュセルの秋のコンサートツアーの日程と重なってしまい、出演は無理だった。しかし、例年どうりこの日だった。
 ピュセルはアニメ『星ヶ丘高校軽音部』のエンディング曲『Don't touch me!』ともう一曲、女子高生が主人公の人気アニメの中で、劇中ガールズバンドのやる曲が運営側からリクエストされた。これら二つの曲はそれぞれ声優の女性の歌でCDが出ており、本来ならその人達が出てきて歌うべきなのだが、運営側はアニメの画面と同じように、実際のガールズバンドでやりたかったようだ。 
ステージ衣装だが、当初、運営側は『星ヶ丘高校軽音部」のエンディング曲が、ドレスを着て演奏しているので、同じ色、デザインのドレスの着用を要求していた。雪乃はがんとして、IMC鋼鉄少女隊の黒のコスチュームで出られるようにと、窓口であるグリーンプロの担当者に頼んでいた。
 しかし、もう一曲もやることになって、その曲をアニメの中で演奏するガールズバンドのコスチュームがバニーガールや魔女の衣裳だったので、運営側は衣裳のこだわりは捨てて、IMCの衣裳のままやることになった。ただし、アイメークは普通にやってくれと言われていた。

 一曲目の後MCができるというので、そこをどう利用するのかについて、ピュセルメンバー達が入念に打ち合わせをした。MCは彩と戸田明日香がやることとなった。現在のピュセルを思いきり宣伝できる内容を考え抜いた。

 IMCは謎のガールズバンドということになっていた。 一曲目『Don't touch me!』をやった後のMCで、彩と明日香がそれぞれ、マイクを手に前へ出る。この曲に観客は沸いていた。
 明日香が叫ぶ。
「ありがとう! 皆さん! IMC鋼鉄少女隊でーす! 私達、謎のガールズバンドっていうことになっていますけど、正体暴露しちゃいます! 皆さん! この人見覚えありません?」
 明日香は彩のほうを指す。
「実は、ラ・ピュセル五期メンバーで、現在のラ・ピュセルのリーダである藤崎彩でーす!」
 観客の一部がざわめく。ピュセルを思い出した人達と、本来のピュセルのファン達が見に来てくれているのだ。アニメソングもアイドルグループのコンサートもサイリュームを打ち振るので、それほど違和感もなく混ざってしまっていた。
「ラ・ピュセルの藤崎彩です! ピュセルがこんなところで、何やってるのって、思った方もいると思います。実は、ピュセル、現在秋のコーサートツアー中で、土、日はピュセルとしての舞台で歌とダンスやってるんですが、今日祭日は空いていましたので参加させてもらいました。IMC鋼鉄少女隊の正体はピュセルの軽音楽同好会です! 趣味が高じて、とうとう、こんなとこにも出させてもらいました。本当にありがとうございます!」
 彩は一礼した後、続ける。
「メンバー紹介いきます。ドラム! ラ・ピュセル十期メンバー村井雪乃!」
 雪乃がドラムソロをやる。
「雪乃は実は元高校軽音部部長です!」
 観客が一瞬どよめく。このアニメのガーズルズバンドのドラムの女の子も軽音部部長の設定になっているからだ。続いて、ギターの吉村由衣、ベースの浜崎杏奈を紹介する。
「キーボード!」
 彩がキーボードのほうを見る。横に立っている明日香も一緒に、誰も居ないキーボードのほうを見る。
「もう、そんな寒いコントやめてください! 早く、キーボードのとこ行って!」
 明日香が慌てて、キーボードの位置に戻る。観客から笑いが漏れる。
「キーボード! ラ・ピュセル五期メンバー、現在のラ・ピュセルサブリーダ、戸田明日香!」
 明日香がキーボードでざっとソロを弾く。
「IMC鋼鉄少女隊、実はインディーズでシングルCDも出しています! メロディックスピードメタルの曲で『ハヤテ』っていいます。実はこの曲のカップリング曲として今の『Don't touch me!』カバーしていましたので、そのご縁で今日出させてもらいました。アーティスト・スペースのほうに登録して、曲の音源もプロモーションビデオも公開していますので、是非見て下さい!」

 雪乃も他のメンバー達も、ここまでピュセルの名が出せれば、上々の出来と思った。しかし、これがテレビ放送時に流されるかは、まだわからなかった。MC部分だけカットして二曲続けて流される可能性もあるからだ。    

 日本中のビジュアル系バンドの祭典が12月に行われた。ピュセルのコンサートの千秋楽が終わった次の週だった。ここでは、さすがにオープニングアクト(前座)にしか潜り込めなかった。
 今回はアニメ曲は無しで、『ハヤテ』を含めて三曲やれた。来年はIMC鋼鉄少女隊のオリジナル四曲入りのミニアルバムを出す予定になっている。 
 ここでは、黒のコスチュームにきついアイメークをして出演したが、全くMCは出来なかった。そのため、パンフレットにはしっかり、IMC鋼鉄少女隊(ラ・ピュセル別働隊)と印刷してもらっている。
 ここでもピュセルのファン達が来てくれていて、最前列に位置して圧縮されながらも一生懸命、応援してくれていた。但し、サイリューム禁止なので、にわか仕込みのヘッドバンキングとメタルピースをやってくれていたのが微笑ましかった。
 雪乃が集まった観客達を見渡す。
「こうやって、対バン(合同コンサート)やって、他のバンドのファンむしり取りながら、成り上がってくんですよ」
 明日香も観客にすっかり酔っているようだった。
「いやぁ、すごいね、この観客数。ピュセルの昔のアリーナコンサートよりもすごいよ。でもさぁ、私達のコスチュームそっくりの女の子が観客の中に一杯居るよね。あれって、私達のファン? まさかねぇ……」
「あの人達は、バンギャルです。バンドの追っかけの人。結構、みんな黒のゴスロリ着ますから」
「あっ、そうか! ねぇ、私達の服って、ある意味ゴスロリじゃないの?」
「スカート、パニエで盛りすぎましたからねぇ……」


作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫