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鋼鉄少女隊  完結

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 今度は明日香も入れて、練習スタジオを五人で頭割りして一人1200円で二時間借りては、あのアニメ曲を練習し、解散して個々に家で練習というのを二週間続けたら、三人の楽器購入から一ヶ月あまりで完璧に出来てしまった。
 スタジオでみんなで通しで演奏し終わって、浜崎杏奈が恐る恐る雪乃に尋ねる。
「どうよ? どう? ねぇ、今のでどう?」
 吉村由衣も達成感のようなものを感じながらも、少し不安げだった。
「ねぇ、雪乃先生。なんか駄目だしある? 正直言って! ちゃんと直して来るから」
 雪乃は沈黙を守りながら、一人にこにこと微笑んでいた。
「ねぇ、何か言って! 気休めはいらないよ。駄目なら、駄目でもっと練習するから」
 実は雪乃は感動の余りしばらく口が聞けなかったのだ。
「いえ、駄目なんてことありません。すごく良かった。すごくいい音でした。なんだろうなぁ……。私、今もう泣きそうなんですよ。まだ小学校にも行っていない小さな頃、夜寝る前にお母さんがよく話してくれた童話をふと思い出しました。幸せの青い鳥は、探し回らなくっても、ほんとは自分のすぐ近くに居るんだって話。そうですよ! これって私が探し求めてた音なんですよ。私がずっと作り上げたいって思ってたバンドなんですよ」
 全ての楽器の音のタイミング、アクセントがぴったり合っていた。それがノリと迫力を生んでいたのだ。ピュセル在籍10年が二人、八年が一人、四年が一人。その期間ひたすら歌とダンスのレッスンを続け、さらに年柄年中コンサートツアーを続けては、その技量を実戦で磨き上げながら、集団としての親和性を深めてきた女達だった。楽器の音が見事にシンクロするのだった。
 舞台にあるときは、全員がまるで一卵性の姉妹のように、あるいは脳の運動野を共有しているかのように動ける。だから、楽器の音もぴたりと合う。互いに調和しようとしてとけ込むと思えば、自分の番が来れば、全体の中から見事な形に盛り上がってきて華やかに目立って、またするっと全体にとけ込んで行く。このかげんは絶妙だった。
 
 それから、雪乃の作った曲『ハヤテ』を一ヶ月かけて練習してものにした。ほんとうに自分たちの休みをほとんど使い尽くし練習したのだ。ちなみにこの曲では彩はギターを持たずボーカルに徹する。二ヶ月後練習スタジオの機器を借りて録音し、デモCDを作り会社に提出した。
 CDを聴いても社長や玉置は半信半疑で、自分たちの前で演奏してみるようにと指示された。雪乃達は自分たちの会社の関係者達が唖然とするぐらいみごとに演奏してのけた。終わった後の、浜崎杏奈と吉村由衣のどや顔が雪乃には爽快だった。 

 インディーズのシングルCD作成は速やかに行われた。何故なら、グリーンプロモーションは自身のインディーズレーベルを持っていたからだ。この会社は単なる芸能プロダクションではなく、グリーングループとして、傘下に芸能の興業に必要な全ての子会社を持っているのだ。イベント屋でもあり、プロモーションビデオやアイドルグループメンバーの個人のDVD、写真集も作成すれば、CDのレーベルもメジャ、インディーズと共に持っている。グリーングループ内では、全く外に発注することなく、自身の所有するアイドルグループの全ての売り上げを手にすることができるので、ピュセルプロジェクトの各グループのメンバーへの高給が払えるのだった。

 玉置が社長の田口に対して、雪乃の感性を信じて、好きなようにやらせみてはと言ってくれたらしかった。CDのジャケットの写真のコスチュームについて、ピュセルから提案するようにとの指示があった。またピュセル九人で頭を付き合わせ、検討に入る。雪乃は第二次世界大戦のドイツの黒の戦車兵の服を主張する。ユニット名『鋼鉄少女隊』の元になった漫画版のコンセプトを主張したのだ。それぞれがノートパソコンを持ち寄ってインターネットに接続して、ミリタリーショップの通販の旧ドイツ軍の軍服のサイトを開いて、画像を表示して意見を述べ合う。
 吉村由衣が口火を切る。
「このジャケットどうしてこんなに丈が短いの?」
「戦車の中は狭いので、あちこちに引っかからないように短くしてあるらしいです」
「セーラ服の短さよりはまし。お腹出ちゃうものね」
「お腹出るのって、テレビ番組でセーラ服着て女装してるデブのお笑い芸人でしょうよ。普通の女の子じゃ出ないよ」
「この一般兵用よりも、こっちの武装親衛隊用の戦車服っていうのが、かっこいいよ!」
「ダブルで襟がかっこいいね。それに下がワイシャツに黒のネクタイなんだね」
「戦車兵はエリートなんで、昔のドイツの軽騎兵の服を元に作ってあります」
「この首に巻いてる黒い十字架のチョーカ、すごくかっこいい。欲しいなぁ!」
「チョーカじゃないですよ。鉄十字章っていう勲章ですよ」
「なに? この袖の帯みたいなの。服買ったら袖にこんなのよく付いてるよね。ブランド名が表示されてるやつ。たまに付けたままずっと着てる恥ずかしい人居るよね」
「カフタイトルって言うんです。名誉ある部隊だけ、自分の隊の名前をそうやって表示するの許されてるんです」
 全員一致で上は、第二次世界大戦のドイツ戦車兵の服の、武装親衛隊用に決まった。

 彩が提案する。
「下がズボンだと、野暮ったい感じね。黒のスカートにしたらどうだろう」
 ピュセルでは一番絵がうまい島田里佳が、決まりつつある内容でデザイン画を描いていく。
「下スカートだと、なんか一昔前の飛行機のキャビンアテンダントみたいよね」
「新幹線のパーサーは今もこんな感じよ」
「新幹線はカラフルなエプロンで、お洒落なスカーフでしょう?」
「あれは車内だけ。あんまり見る機会無いけど、ホームではこんな制服着てるよ」
「スカートはあんなタイトスカートじゃなくって、もっとふわっと広がるのがいいよ」
「ローン生地のスカート」
「それじゃ夏だよ!」
「じゃあ、下にパニエの重ね履き」
 黒木亜美が提案する。
「靴でアクセントつけたらどうでしょう? なんかすごくインパクトのある靴で」

 みんなで一斉に靴のカタログを検索して、めぼしいものを捜す。
「やっぱブーツのほうがいいですよね。ごついほうがいいと思います」
「ワークブーツ系統がいいと思うよ」
「ほら、これ! ごっついよぉ!」
 編み上げの膝下までのワークブーツで、爪先は幅広く丸い。靴底は厚くビムラム底という登山靴に使われているタイプ。編み上げなのに、さらに四つほど、足を固定させるように金属のバックルのついた革のベルトが付いている。
「いかついねぇ!」
「これ履くと、もうキャビンアテンダントじゃないね」

 靴も決まり、あとはミリタリーショップのサイトに表示されている、服に付けるオプションの肩章、襟章、袖章、勲章を物色。さらに戦車兵のギャルソンキャップ仕様の略帽も入れた。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫