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鋼鉄少女隊  完結

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「いいねぇ。聞くぶんにはいいよ。でも、こんなレベルの演奏、私達が出来る? すごくテンポ早いよね。 由衣! あんたこのギター自分で出来ると思う?」
 吉村由衣は首を横に小刻みに打ち振る。明日香も首を横に振る。
「あんた、作曲も作詞もしたんだよね。すごいね。でもボーカル部分はいいとして、この演奏は私達には無理だと思うよ」
「あのー、別にこの曲を是が非でも出したいってわけじゃなくって、ピュセルのオリジナル曲っていうのが必要なんで、いくらでも曲は手直しします。他にも三曲ありますし。でも、アニメ曲の『Don't touch me!』よりは若干演奏レベルの高い曲にしたいんです。余裕でお遊びで、流行ってるアニメ曲完全コピーしてみました。何か? っていうふうに」
 彩が取りなす。
「とにかく、このアニメ曲のほうをやってみよう。これが出来たら、これより難しい曲も少しの練習で出来ると思うわ。やる前から無理っていうのはやめよう。このまま何もしないでいると、私達……、終わってしまうよ!」
 明日香も納得する。
「そうよね。とにかくチャレンジしようか。会社のほうもこの企画受け入れてくれるかどうかまだ、提案してみないとわからないけど、とにかくやってみよう。無駄にはならないと思う。私達自身の音楽のキャリアにはプラスになると思うよ」

 浅井麻由が不満げな顔をしている。
「ねぇ、このバンドのほうに入れない、私と高見さん、島田さん、黒木さんの四人はどうなるんですか? 置いてかれるんですか?」
 雪乃が慌てて返答する。
「いえ、そんなこと無いです。ピュセル本隊のやることは別にあります。このアニソンカーニバルへの出演ていうのは、ピュセルから支隊を作って、威力偵察をやるのが目的ですから」
 明日香が手を上げる。
「この威力偵察って言葉わからない人! 私はわかりません」
 他のメンバーが皆手を上げる。
「あっ、ごめんなさい。威力偵察ってのは、本格的な戦争を始める前に、地形や敵の兵力、配置を確認するため、相当な装備と兵力を持って、試しに進出してみることです。実際に敵の攻撃を受けてみて、応戦しながら正確な情報を得るっていうものです。だから、アニソンのほうはバンドがうまくいくかどうかを知る為の威力偵察で、ピュセル本隊ではこういうのやってみたいと思っているものが別にあるんです」
 雪乃はCDを取りだし、パソコンのCDドライブに入れる。これもまた疾走感たっぷりのメロスピの曲だった。
「これ、日本のメロディックスピードメタルのバンドのドラゴンバスターズの『ブルードラゴン』っていうアルバムです」
 聞いているとボーカルの声の他に日本語でナレーションが入り、曲をバックに男女の声で劇のようなものが進行していく。
「すごいでしょ。私、最初これ聞いた時、すごくウザかったんです。曲もいいし、ボーカルの女の人の声もすごくいいのに、変な声がいっぱい入ってて、すごく残念なCDでした。これって、アニメの声優さん達がそれぞれの役割でしゃべってて、個々の曲がこのストーリーの各章になっているんです。最後に伝説の魔剣ドラゴンスレーヤーを手に入れて、ブルードラゴンを倒すっていう筋書きです。でも、何遍も聞いているとこれクセになってしまって、この科白を聞いて必死でストーリー追っているうちに、私もこういうのやってみたいなぁって思ってしまったんです」
 雪乃はホワイトボードにメンバー達の名前を書いてゆく。
「この四人がバックバンドです。丁度、アニソンカーニバルに出演しようっていうメンバーより、彩ちゃんを除いた布陣です。で、彩ちゃんを入れた他の五人がボーカル、コーラス、ダンス、演技をやるんです」
 彩が驚いたような声を出す。
「演技! 演技やるの?」
「そうです。生演奏のバックバンドで、小規模なミュージカルをやるんです。ピュセルのコンサートで、途中でMC入れたり、ソロや二・三人のユニットで歌ったりするじゃないですか、その流れでやれたらいいし、この小規模ミュージカル単独でも、公演出来たらいいなぁとも思ってるんです。もちろんバックバンドの私達もコーラスのほうには入ります」

 明日香が首を傾げながら尋ねる。
「ねぇ、度々ケチつけるようなこと言って悪いんだけどね。私って、家出るときは持ち物チェックして全部確認してからしか出発できない質なの。途中でコンビニで買いそろえて行くって発想が出来ないのよ。だから、あえて聞くけど、ミュージカルの筋書きはどうするの? こういうのって、作家に頼んだら、お金掛かると思うよ」
「あっ、それは心当たりありますから」
 雪乃は自分のバッグの中からA4サイズの薄いマンガ本を二冊取り出す。
「これ、私が前居た静岡の高校の漫研、つまり漫画研究会が出した同人誌なんです」
 一冊目は美しい女が表紙で、『落日の女王』とあり、もう一冊は表紙が戦車の絵で『鋼鉄少女隊』とあった。
「この二冊の原作はいつでも使えます。曲はまだ作ってませんが、作るようにします」
 二冊とも表紙に、「作画 聖モニカ女学院高校漫画研究会、原作 磯上あしび」とあった。
「画を描いた漫画研究会のほうには話通さなくてもいいだろうけど、ストーリー作った磯上あしびさんに払う著作権料とか必要じゃないの?」
「あ、大丈夫! いりませんから。磯上あしび、って私のペンネームですから」
 メンバー全員が唖然とする。
「ええ! あんたって、何者なの? ほんと多才だねぇ! 驚くわ」
「高一のとき漫研で漫画原作コンテストとっていうのやってて、『落日の女王』を出したら、大賞になって賞品は千円くらいのアニメキャラの目覚まし時計もらいました。二作目の『鋼鉄少女隊』はもう一作書いてくれって頼まれたやつです。売れたら、印税みたいに歩合くれるって言ってたんだけど、うちの学校コミックマーケットなんかに出展するの禁止でしたから、学校内でちょっと売れたぐらいだったみたいで、お金は貰えませんでした」
 明日香が深いため息を吐く。
「わかった。あんた、ほんとポケットから何でも出てくる人ね。わかった、もう心配しないわ。ああ、と言いながら、もう一つ心配が……。ピュセルで玉置さん以外の人の曲やれるんだろうか? ピュセルは玉置さんの曲やるグループって位置づけで来たもんね」
 彩が答える。
「大丈夫よ。ユニット名変えてしまえばいいのよ。ピュセルも以前はピュセル内でいろんな名前のユニット作ってたじゃない。ピュセルプロジェクト内の他のグループとのシャッフルユニットも作ってたし。シャッフルユニットの中の二つは玉置さん以外の曲をやってたじゃない。とりあえず、雪乃に曲作らせて、使ってよいか判定してもらえばいいのよ」

 じゃあバンドを含んだほうのユニット名を付けようかということになったが、誰も命名しようとはしなかった。
 彩が全員の気持ちを伝えた。
「雪乃がここまで決めてきたんだから、名前は雪乃に付けてもらいましょう。みんな、いいよね?」
 結局、雪乃が命名することになった。
作品名:鋼鉄少女隊  完結 作家名:西表山猫